脊髄損傷後の心機能不全
抄録
この記事の目的は,脊髄損傷後に発生する心機能不全を分析することである.心機能不全は脊髄損傷後のありふれた合併症である.心血管系の障害は,脊髄損傷の急性期と慢性期の両方における最多の合併症と死因である.
我々は,脊髄損傷後の心障害の疫学と,自律神経系,すなわち交感神経と副交感神経の神経解剖と病態生理をレビューした.
脊髄損傷は,重大な心機能不全と関連している.自律神経制御系の障害は,たいていは頚髄もしくは上位胸髄の脊髄損傷の患者でみられ,不整脈,とくに徐脈と,まれに心停止の原因となり,あるいは頻脈や血圧低下を生じさせる.脊髄ショックや自律神経異常反射のような外傷後の時間によって異なる特異的な合併症もレビューした.脊髄ショックは脊髄損傷後の急性期に生じ,損傷レベルより下位の一過性の機能と反射の停止状態である.神経原性ショックは,脊髄ショックの一部であり,重度の徐脈と血圧低下である.自律神経反射異常は,脊髄ショックが解消した後の慢性期に生じ,内臓交感神経出力(T5-T6)より上位の脊髄損傷の患者に生じる過大で不釣り合いな反射性交感神経放出という深刻な症候群である.何よりも,心臓脱調節や冠動脈心疾患といった,さらなる心合併症も生じることがある.
非薬物戦略と薬物戦略,および心臓リハビリテーションを含む適切な予防によって,脊髄損傷後の心機能不全の発生が減少する.それぞれのタイプの心障害には特異的な治療が必要である.