2015年12月8日火曜日

日本の医療システムの将来−低コストで公平な質の高い医療の維持 NEJM 2015







 4年前,日本は国民に対して低コストで,公平性を改善しながら良質な医療を達成してから50年を迎えた.1961年,高度経済成長が始まった時期,国は比較的貧しかった(GDPは英国の半分だった)が,日本は国民皆保険を成し遂げた.その後の半世紀,この制度は医療システムを成立させ続け,公平性を保ちつつ,世界的な医療の世界的外交戦略においても皆保険の原則を適用してきた.しかし現在,日本は,経済の停滞と人口の急速な高齢化および出生率の低下のために,深刻な財務上のプレッシャーに直面している−しかし,このような困難にも関わらず,日本は医療システムを維持しようと努力している.

2015年12月3日木曜日

脳卒中リハビリテーションにおけるWiiゲームを用いた仮想現実の有効性 予備的ランダム化臨床試験と原理の証明 Stroke 2010

脳卒中リハビリテーションにおけるWiiゲームを用いた仮想現実の有効性
予備的ランダム化臨床試験と原理の証明

背景と目的−上肢の機能制限を引き起こす片麻痺は脳卒中患者ではよく見られる.すでに存在するエビデンスでは脳卒中でリハ治療の強度を上げると運動回復がより良好であることが示唆されているけれども,脳卒中リハにおける仮想現実の有効性については参考になるエビデンスは限られている.
方法−この予備的ランダム化単盲検化臨床試験では発症から2ヶ月以内の脳卒中患者での2つの並行群間で,上肢の運動改善を評価するために標準的なリハビリテーションを受けている患者で任天堂Wiiを用いた仮想現実の有効性をレクリエーション療法(カード,ビンゴ,ジェンガ)と比較し,実行可能性,安全性,有効性を評価した.実行可能性の主要評価項目は介入を受けた時間の総和である.安全性の使用評価項目は研究期間中の介入に関連した有害事象を生じた患者の割合である.有効性は二次評価項目であるが,介入から4週後のWolf Motor Functional Test,Box and Block Test,Stroke Impact Scaleで評価した.
結果−全体として,スクリーニングされた患者の110人中22人(20%)がランダム化された.平均年齢(範囲)は61.3歳(41〜83歳).訓練セッション後,参加者2人が脱落した.介入がうまく実行できた患者はWii群では10人中9人,上肢のレクリエーション療法群では10人中8人だった.総セッション時間の平均はレクリエーション治療群では388分に対しWii版では364分だった(P=0.75).両群とも重篤な有害事象はなかった.レクレーション療法群と比べて.Wii群の参加者は,7秒間の運動機能の平均が,年齢,機能状態の基礎値(Wolf Motor Function Test),脳卒中重症度を調整しても有意に改善していた(Wolf Motor Function Test, 7.4秒;95%信頼区間−14.5〜−ー0.2).

結論−仮想現実の初ゲーム機は安全で実行可能であり,脳卒中後のリハ治療を促進し,運動回復を促すための有効な代替手段として有望である.

2015年10月29日木曜日

嚥下障害の患者における肺炎予防のための脳卒中後の予防的抗菌薬(STROKE-INF):前向き・クラスターランダム化・オープンラベル・エンドポイント秘匿化・比較対照臨床試験 Lancet 2015

 嚥下障害の患者における肺炎予防のための脳卒中後の予防的抗菌薬(STROKE-INF):前向き・クラスターランダム化・オープンラベル・エンドポイント秘匿化・比較対照臨床試験

まとめ
背景 脳卒中後の肺炎は死亡や機能予後不良と関連する.この研究では,急性脳卒中後の嚥下障害の患者における肺炎を減少させるための抗菌薬予防投与の有効性を評価した.

方法 我々は,イギリスの脳卒中ユニット48施設から募集した新規の脳卒中後の嚥下障害のある18歳以上の患者で,マスクしたエンドポイントを評価した前向き・多施設・クラスターランダム化・オープンラベル比較対照試験を行った.これらの施設はイギリスのNatioval Stroke Audit(国立脳卒中監査?)で認可され,対象となった施設とした.抗菌薬の禁忌のある患者,元々嚥下障害のあった患者,既知の感染症,14日以上の生存が予測されない患者は除外した.我々は,脳卒中ユニットを1:1に分け,脳卒中発症から48時間以内にユニットに入院した患者に関して,標準的脳卒中ユニットの治療に加え7日間の予防的抗菌薬を処方するユニットと標準的脳卒中ユニットの治療のみユニットに分けた.入院施設と専門家の治療へのアクセスによる最小限の階層化を行ったランダム化した.評価と解析を行う患者とスタッフは脳卒中ユニットの割当は盲検化された.主要評価項目は,脳卒中発症から14日以内の脳卒中後の肺炎で,治療企図解析において,診断基準に基いた階層的アルゴリズムと臨床医の診断で評価した.安全性も治療企図解析で評価した.この試験は新奇の参加者には公開しておらず,isrctn.comに登録した.

知見 2008年8月21日から2014年5月17日の間に,脳卒中ユニット48施設(ユニットに1224人の患者が入院)を2つの治療群に割り当てた.24施設が抗菌薬,24施設が標準的治療単独(コントロール)である.11ユニットで7人の患者がランダム化から14日目までに脱落し,治療解析には37施設1217人が残った(抗菌薬群615人,コントロール602人).予防的抗菌薬は,アルゴリズムで判定した脳卒中後の肺炎発生率には影響しなかった(抗菌薬群564人中71人(13%) 対 コントロール群524人中52人(10%),限界調整オッズ比1.12[95%信頼区間0.71〜2.08],p=0.489,級内相関係数0.06[95%信頼区間0.02〜0.17]).アルゴリズムで判定した脳卒中後の肺炎は129人(10%)の患者でデータがないために確認できなかった.さらに,我々は,臨床医の診断による脳卒中後の肺炎の群間の差をみとめなかった(615人中101人(16%) 対 602人中91人(15%),調整オッズ比1.01[95%信頼区間0.61-1.68],p=0.957,級内相関系数0.08[95%信頼区間0.03-0.21]).もっとも多かった有害事象は脳卒中後の肺炎とは無関係の感染症(主に尿路感染)で,抗菌薬群の方が少なかった(615人中22人(4%) 対 602人中45人(7%),オッズ比0.55[95%信頼区間0.32-0.92],p=0.02).Clostridium difficile陽性の下痢は抗菌薬群に2%(<1%),コントロール群に4人(<1%)みられ,MRSAのコロニー形成は抗菌薬群11人(2%),コントロール群14人(2%)にみられた.

解釈 脳卒中ユニットで治療中の脳卒中の嚥下障害の患者において脳卒中後肺炎の予防をための抗菌薬投与は推奨されない.

2015年10月11日日曜日

急性期軽症脳卒中および一過性脳虚血発作におけるクロピドグレルとアスピリンの併用 N Engl J Med 2013

急性期軽症脳卒中および一過性脳虚血発作におけるクロピドグレルとアスピリンの併用





















背景
脳卒中は,一過性脳虚血発作(TIA)や軽症脳梗塞から最初の数週の間によく生じる.クロピドグレルとアスピリンの併用はアスピリン単独よりも続発する脳卒中に対する予防効果が大きいかもしれない.

方法
中国の114センターで行われたランダム化・二重盲検化・プラセボ比較対照試験を,中国の114センターで,我々は軽症脳梗塞またはTIAの発症から24時間以内の患者5170人を,クロピドグレルとアスピリンの併用(クロピドグレルは初回300mgでその後75mg/日で90日間,アスピリンは75mg/日で最初の21日),またはアスピリン単独(75mg/日で90日)にランダムに振り分けた.すべたの患者が初日に医師が決めた量のアスピリン(75mg〜300mg)をオープンラベルで服用した.主要評価項目は,治療企図解析での観察期間90日以内の脳卒中(梗塞か出血)である.治療ごとの差を研究センターで変量効果としてCox比例ハザードモデルを用いて評価した.

結果
脳卒中はクロピドグレル−アスピリン群では8.2%に生じ,アスピリン群では11.7%に生じた(ハザード比0.68;95%信頼区間0.57〜0.81;P<0.001).中等度〜重度の出血がクロピドグレル−アスピリン群では7人(0.3%),アスピリン群では8人(0.3%)に生じ(P=0.73),各群の出血性梗塞の割合は0.3%だった.

結論
TIAまたは軽症脳卒中で症状出現から24時間以内に治療された患者では,クロピドグレルとアスピリンの併用は,アスピリン単独よりも,最初の90日間の脳卒中のリスクを軽減し,出血のリスクを増大させなかった.

2015年9月29日火曜日

脳卒中に対する超早期リハビリテーション試験(AVERT) 第Ⅱ相 安全性と実効可能性  Stroke 2008



脳卒中に対する超早期リハビリテーション試験(AVERT)
第Ⅱ相 安全性と実効可能性



背景と目的−超早期リハビリテーションは離床を重視しており,脳卒中後の予後改善に寄与するかもしれない.我々は超早期リハプロトコルは安全で実行可能だろうという仮説を立てた.
方法−我々は評価項目の評価を盲検化したランダム化・比較対照試験を行った.メルボルンの2つの脳卒中ユニットで脳卒中発症から24時間以内の患者を対象とした.患者は標準的治療または標準的治療+超早期離床を,退院または14日間(どちらか早い方)まで受けるようにランダムに割り当てられた.安全性の主要評価項目は3ヶ月時点での死亡である.実効可能性の主要評価項目は超早期離床において実施できた離床の“量”が多いことである.安全性の二次評価項目は,有害事象(転棟や早期の神経学的な増悪),身体モニタリングでのコンプライアンス,介入後の患者の疲労である.実効可能性の二次評価項目は標準的治療の“混入”である.
結果−全体として,スクリーニングされた患者の18%が基準に合致していた.71人が対象となり,ランダムに割り当てられ,12ヶ月で2人が脱落した.多くは脳梗塞(87%)だった.年齢の平均±SDは74.7±12.5歳,NIH Stroke Scale>7が58%(41人)だった.群間で死亡数に有意差はなかった(標準治療3/33,超早期離床8/38).死亡はほぼすべてが重症脳卒中の患者であった.安全性の二次評価項目は群間で同等だった.介入プロトコルの提供は成功しており,超早期離床の量的な目標(標準的治療の倍,P=0.003)を達成し,初回の離床までの時間が短かった(P<0.001).
結論−脳卒中急性期の24時間の患者の超早期離床は安全で実行可能だろう.介入の有効性と費用対効果は,現在,大規模ランダム化比較対照試験でテストされている.



2015年8月23日日曜日

脳卒中急性期の嚥下障害に対する行動介入:ランダム化比較対照試験 Lancet Neurol 2006


脳卒中急性期の嚥下障害に対する行動介入:ランダム化比較対照試験
まとめ
背景 脳卒中後の嚥下障害はありふれているが,この障害をどのような管理すべきかについて信頼できるエビデンスがほとんどない.この研究では,低強度と高強度の標準的な行動介入および通常治療を比較した.

方法 脳卒中急性期の入院患者で臨床的に嚥下障害を呈する患者306人をランダムに通常治療(102人)(主治医が処方);低強度標準的行動介入(102人)(嚥下代償戦略と食形態処方で週3回,1ヶ月);高強度標準的行動介入(102人)(少なくとも1日1回,1ヶ月)に振り分けた.主要評価項目は6ヶ月時点での通常食以外の食事が不要での生存である.解析は治療企図解析で行った.

知見 6ヶ月間の解析までに死亡60人,脱落3人.6ヶ月後の通常食以外の食事が不要の生存は,通常治療にランダムに割り当てられた患者では56%(57/102),標準的な嚥下治療に割り当てた患者では67%(136/204)だった(相対リスク1.19,95%信頼区間0.98〜1.45).標準的嚥下治療は死亡率減少(相対リスク0.80,95%信頼区間0.5〜1.3),施設入所(0.69,0.4〜1.1),胸部感染(0.56,0.4=0.8),死亡および施設入所の合計(0.73,0.55〜0.97)と有意ではないが傾向があった.6ヶ月後に嚥下機能が回復した患者の割合は有意に高かった(1.41,1.03〜1.94).通常治療および低強度治療群と比較すると,高強度治療群は6ヶ月後に通常食に戻った患者の割合が有意に高く(p=0.04),嚥下機能が回復した割合が高かった(p=0.02).
解釈 これらのデータから,脳卒中の嚥下障害患者で早期の嚥下の行動介入の標準的プログラムに割り当てた患者はより良好な結果となる傾向が一貫して示された.このような介入には,能動的な治療的アプローチと食形態の調整がある. 



2015年8月17日月曜日

失語症:理論と診療における現時点でのコンセプト J Neurol Transl Neurosci2014

失語症:理論と診療における現時点でのコンセプト
















抄録
神経画像技術における最近の進歩により,脳−行動の関係に関する新たな見解が発展し,言語の機能的神経解剖の理解が深まった.言語の機能的神経解剖の最新のコンセプトから,言語理解と表出における豊富で複雑なモデルが考案された.このようなモデルにdual stream networks(二重経路ネットワーク)がある.失語は言語の基礎となる認知処理の破綻とみなされるようになってきた.失語症のリハビリテーションではエビデンスに基づいた部分と個人中心のアプローチを組み合わせる.皮質の興奮性を変化させる皮質脳刺激を与える手法のような新しい技術に,経頭蓋反復磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激があるが,研究が始まったばかりである.このレビューでは言語への神経科学的なアプローチの基礎における歴史的な経緯を考察する.我々は言語と認知処理の神経基板の新しく作られた理論的モデルを試す.この神経基板は失語症の背景となっており,より洗練された微妙な言語の概念に関与している.失語症リハの現時点でのコンセプトをレビューし,このレビューには,行動療法の補助となるような皮質刺激の有望な役割や神経可塑性の原理や機能予後を最適化するようなエビデンスベース/個人中心の診療に基づいた治療アプローチの変化を含んでいる.

2015年8月13日木曜日

高齢者の嚥下障害:管理と栄養の検討 Clinical Interventions in Aging 2012

高齢者の嚥下障害:管理と栄養の検討



















抄録:嚥下障害は高齢者に多く見られる障害である.加齢は嚥下機能におけるわずかな生理機能の変化を促進するけれども,加齢に関連した疾患は嚥下障害の発生と重症度の重要な因子である.高齢者の疾患や医学的合併症の中でも,脳卒中と認知症は嚥下障害と高率に生じる.どちらの病態においても,嚥下障害は栄養障害を引き起こし,肺炎のリスクを高くする.最近の研究から,地域生活高齢者も嚥下障害のリスクがあり,栄養状態の障害や肺炎リスク上昇と結びつくことが示唆された.摂食・嚥下リハビリテーションは,このような対象において経口摂取の安全性を高めるための有効なアプローチであり,最近の研究では栄養状態の改善や肺炎発生率の低減に関連したさらなる効果が示されている.この記事では,嚥下の加齢性変化についてのデータをレビューし,脳卒中や認知症の患者,および地域生活高齢者の嚥下障害との関連性を議論する.それから,我々は代償的アプローチとリハ的アプローチの両方を含む嚥下障害の介入への基本的アプローチをレビューする.我々は,嚥下障害のある高齢者と嚥下障害のリスクのある高齢者の両方において,栄養障害と肺炎に対する摂食・嚥下リハビリテーションの好ましい効果についての議論の結論を述べる.

2015年7月16日木曜日

基準フレームの異なる半側空間無視の発症と神経学的基板についての研究 Arch Phys Med Rehabil 2012

基準フレームの異なる半側空間無視の発症と神経学的基板についての研究


























目的:基準フレームの異なる左半側空間無視の割合と神経系の関連因子を検討すること.
デザイン:ケースシリーズでの右半球損傷患者からデータを抽出した.
環境:病院のリハビリテーション科と神経内科.
参加者:右半球損傷患者(110人).
介入:なし
主要評価項目:基準フレームの異なる左半側空間無視の頻度を調べ,脳の責任病変を示し,解析した.
結果:条件が悪くて当初予定していた無視のテストを完了できなかった患者もいた.55人中8人は分類のためのテストを完了できなかった.無視の患者47人中30人(63.83%)は対象中心無視と自分中心無視の両方を示したが,一方,17人は自分中心無視のみを示した.下前頭回,中心前回,中心後回,上側頭回,中側頭回,島,および周辺の白質における病変が,無視群ではコントロール群よりも多かった.自分中心無視群と比べて,対象中心無視と自分中心無視の両方を示す患者では,右上側頭回,中側頭回,レンズ核,および周辺の白質の損傷が多かった.
結論:右脳損傷後の左無視の患者の半数以上が自分中心無視と対象中心無視の両方を有していた.左半側空間無視と関連があったのは,右下前頭回,中心前回,中心後回,上側頭回,中側頭回,島,周辺の白質だった.対象中心性の左無視は,右上側頭回,中側頭回,レンズ核と関連があった.


2015年6月9日火曜日

上肢リハビリテーションへの運動学習と運動制御の原則の応用 J Hand Ther 2013

上肢リハビリテーションへの運動学習と運動制御の原則の応用








抄録
この文献の目的は,運動制御と運動学習の原則の簡単なレビューを提供することである.古典的な運動制御モデルから現在のモデルへの違いはシステムモデルの重要性を強調して提示されている.スキルの獲得や学習の評価,そして練習スケジュールやフィードバックの使用といった多くの側面を研究することによるスキル獲得を促進する方法などの運動学習の概念を提供する.このような概念を理解し,実地臨床にどのように適用するかの理解を促進するために,仮想の症例を紹介し,記事の中で繰り返し提示する.


2015年6月7日日曜日

脳卒中発症後24時間以内の超早期離床(AVERT)の有効性と安全性:ランダム化比較対照試験 Lancet 2015


脳卒中発症後24時間以内の超早期離床(AVERT)の有効性と安全性:ランダム化比較対照試験





















背景 早期離床は脳卒中ユニットの治療の効果に寄与すると考えられている:しかしながら,介入内容はあまり定義されておらず,強いエビデンスによって支持されているわけではない.我々は,脳卒中後の高頻度・高用量の超早期離床の有効性を通常治療と比較することを目的とした.


方法 5ヶ国56ヶ所の急性期脳卒中ユニットで,並行群間・単盲検化・ランダム化比較対照試験を行った.初回または再発の脳梗塞または脳出血の患者(18歳以上)で,身体的条件を満たした患者をランダムに割り当てた(1:1).ランダム化にはウェブ上のコンピュータで生成したブロックランダム化手順(ブロックは6人)を用い,通常の脳卒中ユニットの治療のみを受けるか,通常治療に加えて超早期離床を行うかを決めた.rt-PAも使用は可とした.ランダム化は研究施設と脳卒中の重症度で階層化した.試験に参加した患者の効果の評価者と研究者,およびデータ管理に治療の割り当てをマスクして行った.主要評価項目は脳卒中発症3ヶ月後の予後良好とし,その定義はmodified Rankin Scale0-2とした.解析はintention-to-treat(治療企図)解析で行った.この試験はオーストラリア・ニュージーランド臨床試験登録に登録され,番号はACTRN12606000185561.


知見 2006年6月18日から2014年10月16日の間に2104人を患者を登録し,超早期離床(1054人)と通常治療(1050人)を受けるようにした.2083人(99%)の患者が3ヶ月後の追跡調査の評価を受けた.超早期離床群では965人(92%)が24時間以内に離床され,通常治療群では623人(59%)だった.予後良好の患者は超早期離床群では通常治療群より少なかった(480人[46%] vs 525人[50%];修正オッズ比0.73,95%信頼区間0.59〜0.90;p=0.004).超早期離床群では88人(8%)が死亡し,通常治療群では72%(8%)だった(オッズ比1.34,95%信頼区間0.94〜1.93;p=0.113).致死的でない重篤な有害事象は超早期離床群201人(19%),通常治療群208人(20%)で,超早期離床群で安静に関連した合併症が減少するということはなかった.

解釈 この試験ではほとんどの患者で24時間以内に最初の離床を行った.より高用量の超早期離床プロトコルは3ヶ月後の予後良好のオッズを低下させた.脳卒中後の早期離床は世界中で多くの臨床診療ガイドラインで推奨されており,我々の知見は現在のガイドラインを改良することで臨床診療に影響するはずである.しかしながら,用量と効果の関係に関する今後の研究による情報を臨床的推奨に加えるべきである.



2015年5月22日金曜日

多発性硬化症における股関節内転筋の痙縮に対するボツリヌス毒素(Dysport®)療法:前方視・ランダム化・二重盲検化・プラセボ対象・投与量設定研究 J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000

多発性硬化症における股関節内転筋の痙縮に対するボツリヌス毒素(Dysport®)療法:前方視・ランダム化・二重盲検化・プラセボ対象・投与量設定研究










































抄録
目的−股関節内転筋の痙縮に対するDysportの安全で効果的な投与量を決定する.
方法−多発性硬化症の確定診断または疑いの患者で,両側下肢の股関節内転筋に痙縮がある患者を,4つの治療群にランダムに割り当てた.Dysport(500単位,1000単位,1500単位)およびプラセボをこれらの筋群の筋内に注射した.患者の評価は,開始時,治療後2週後,4週後(一次解析),8週後,12週後に行った.
結果−計74人の患者が募集された.開始時に治療群はよくマッチした.有効性の主要変数−他動的股関節外転,膝と膝の距離−はすべての群で改善した.1500単位群の両膝間距離は
はプラセボよりも有意に大きく改善した(P=0.02).スパズムの頻度はすべての群で減少したが,筋緊張はDysport群だけが軽減した.疼痛は全群で改善したが,衛生のスコアは1000単位群と1500単位群だけが明らかだった.効果の持続期間はDysport群ではすべてプラセボよりも長かった(P<0.05).有害事象はDysport群では32/58(55%)に報告され,プラセボでは10/16(63%)だった.投与量の少ない2群と比べると,1500単位群では有害事象の頻度が2倍だった(2.7/患者).1500単位群の筋力低下の発生(36%)はプラセボよりも高かった(6%).治療への反応は500単位群では2/3の患者で良好であり,他の群では概ね半数だった.
結論−Dysportは多発性硬化症による股関節内転筋の痙縮を軽減し,この効果は経口抗痙縮薬や鎮痛薬の併用下でも証明された.用量反応作用は統計学的には有意ではなかったけれども,高容量のDysportでは効果が大きく,持続期間が長い傾向は明らかだった.Dysportでの治療は認容性が高く,1500単位まで用量を増やしても大きな副作用はなかった.股関節内転筋の痙縮に対する最適な用量は500〜1000単位を両下肢に分配して投与することのようだ.


2015年5月15日金曜日

大腿直筋の痙縮による歩行不安定:歩行解析と運動神経ブロック Ann PhysRehab Med 2012

大腿直筋の痙縮による歩行不安定:
歩行解析と運動神経ブロック








抄録
 外傷性頸髄損傷後の右Brown-Séquardプラス症候群を呈した54歳男性を紹介する.右痙性尖足のために脛骨神経切離術と下腿三頭筋腱延長術を行った後,早歩きでの歩行障害を生じた.患者は右膝の不安定を訴えた.観察での歩行分析では支持期に右膝の動揺性の屈曲/伸展運動が見られ,歩行解析でも確認された.動的筋電図測定では支持期の右大腿直筋のクローヌスをみとめた.大腿直筋の痙性活動と右膝の異常運動は,大腿直筋の運動神経ブロック後に全体的に回復し,A型ボツリヌス毒素投与後にも同様だった.我々は複雑な痙縮による歩行障害は,歩行解析と神経ブロックを含む総合的評価によって改善しうることを強調する.

2015年5月9日土曜日

成人の痙縮におけるボツリヌス毒素療法 有効性とリスクの評価  Drug Safety 2006

成人の痙縮におけるボツリヌス毒素療法













 ボツリヌス毒素の注射は局所の痙縮治療に革命をもたらした.その到来以前は,局所の痙縮の治療は経口抗痙縮薬(これは局所でない有害事象が明らかに多かった)やフェノール注射だった.フェノール注射は実施が難しく,感覚の合併症を引き起こすことがあり,効果の程度や有効期間ははっきりしなかった.さらに,ほとんどの神経内科医はどうやって実施するのか知らなかった.というのも,それはたいていはリハ専門医の領域だったからである.ボツリヌス毒素は,局所に有効期間を予測しやすい,コントロール可能な筋力低下を生じさせることが可能で,感覚の有害事象がない.
 種々の疾患(主に脳卒中と多発性硬化症)による痙縮の患者を対象としたランダム化臨床試験では,A型ボツリヌス毒素(Dysport®とBotox®)が一時的に(約3ヶ月間)上肢の肘・手関節・手指屈曲および下肢の股関節内転・足関節底屈の痙性緊張亢進を緩和しうることが明確に示されている.このような神経学的障害の軽減による臨床的な有効性は上肢でもっともよく示されており,他動的機能の能力低下が軽減したり,介護者の負担が軽減する.下肢においては,股関節内転筋への注射により会陰の衛生が改善する.足関節底屈の筋緊張緩和による効果はそれほどよく確立されてはいない.ランダム化臨床試験では能動的機能は未だに明確に示されているわけではなく,オープンラベル試験だけである.A型ボツリヌス毒素の安全性は素晴らしいものであり,最小限の(主に局所の)有害事象があるだけである.
 痙縮におけるB型ボツリヌス毒素(Myobloc®またはNeurobloc®)の使用のデータはほとんどなく,これを調べたランダム化臨床試験だけが筋緊張の軽減を示しておらず,ドライマウスがもっとも多い有害事象のようである.フェノールとボツリヌス毒素注射の有効性ーリスクの比較を可能にするようなデータもほとんどない.それぞれに臨床的・技術的な利点と欠点があり,フェノールはボツリヌス毒素よりも大幅に安価である.

2015年4月30日木曜日

統計ソフトEZRー実践編3(検定)ー

続いて,textの2群に差があるかどうかと検定してみましょう.
流れとしては,データの要約,検定法の選択,検定です.

2015年4月24日金曜日

膝つっぱり歩行を呈する脳卒中患者における複数筋へのボツリヌス毒素同時注射の障害・活動・参加・QOLへの効果 Stroke2008

膝つっぱり歩行を呈する脳卒中患者における複数筋へのボツリヌス毒素同時注射の障害・活動・参加・QOLへの効果











背景と目的−歩行は日常生活や社会参加のための必要不可欠な活動であり,脳卒中後にはしばしば制限を受ける.遊脚期の膝屈曲の欠如(膝のつっぱり)は,片麻痺の痙縮を伴う患者で歩行能力を制限するような障害の1つである.我々の目的は膝つっぱり歩行を呈する脳卒中慢性期患者において,複数の痙縮筋へのA型ボツリヌス毒素(BoNT-A)の注射の効果を研究することである.
方法−膝つっぱり歩行を呈する脳卒中慢性期患者でトレッドミルを歩行可能な20人が募集された.BoNT-Aは複数の痙縮筋に注射した:大腿直筋(200単位),半腱様筋(100単位),下腿三頭筋(200単位).患者の神経学的障害(Ashworth Scale,Duncan-Ely test,Stroke Impairment Assessment Set,instrument gait analysis(機械的歩行解析))および活動(ABILOCO,10m歩行テスト),参加(SATISPART-Strokeと36-item Short Form Health Survey)を注射前と2ヶ月後に評価した.
結果−BoNT-Aは障害を緩和した.SIASが改善し(56.5[48〜63]から56.5[52.5〜63];P<0.001),大腿直筋の緊張(2[1〜2.5]から0[0〜1];P<0.001),半腱様筋の緊張(1[1〜1.5]から0[0〜1];P<0.001)が軽減した.歩行解析では,遊脚期の膝屈曲が拡大し(22±19°から27±16°;P=0.03),外部機械的仕事が軽減し(0.66±0.38から0.59±0.25J kg-1 m-1;P=0.04),エネルギーコストが低減する(2.2±1.9から3.2±2.1 logits;P=0.03)ことが示された.参加とQOLは変化なく,そのままだった.


2015年4月19日日曜日

統計ソフトEZRー実践編2(グラフ)ー

次にグラフを描いてみましょう.
EZRでは表計算ソフトのような派手なデザインのグラフは描けませんが,いろんな種類のグラフを描くことができます.

今回はヒストグラムを作成してみます.

2015年4月16日木曜日

統計ソフトEZRー実践編1(データの読み込み)ー

実際にEZRを使ってみましょう.
慣れれば実に簡単(恐らくSPSSよりも使いやすいです)なのですが,商業ベースの製品と比べると若干のとっつきにくさはあります.最初につまづきやすそうなところを少し紹介します.

2015年4月11日土曜日

歩行の運動パターン News Physil Sci 1999






 歩行の運動生理









哺乳動物における歩行は大幅な違いがあるという事実にも関わらず,運動コントロール
には共通の基本原則が作用している.このことは,共通の機械的および神経系の強制力を反映している.前者はバランスを維持することとエネルギー消費を抑えることの必要性に関連している.後者は,central-pattern generatorのネットワークの構造に関連している.


2015年4月9日木曜日

統計ソフトEZRー導入編4(おまけ)ー

3まででEZRがインストールされたはずですが,Rを開いてコマンドラインを入力するのが面倒くさい方のために,自治医大血液内科のサイトではRを開くだけでEZRが開くように設定する方法を紹介しています.

ここでは,実際にやってみた手順を紹介します.

2015年4月7日火曜日

統計ソフトEZRー導入編3(RcommanderとEZRのパッケージのインストール)ー

3段階のプロセスの3段階目です.
1.Rのインストール
2.X11のインスール(OS X Mountain Lion以降)
3.RcommanderとEZRのパッケージをインストール

最後にRcommanderとEZRのパッケージをインストールします.ここからは,Rのコマンドライン入力になります.
Windows3.1以前のPCを使ったことがないような方にはちょっととっつきにくいかもしれませんが,コマンドライン入力を必要なのは基本的にはこれだけです.インストール後はGUIでの処理が可能です.

2015年4月5日日曜日

痙性麻痺による膝つっぱり歩行のある成人における大腿直筋の化学的脱神経の効果:脳卒中患者でのメタ解析のレビュー Archi Phys Med Rehab 2014

痙性麻痺による膝つっぱり歩行のある成人における大腿直筋の化学的脱神経の効果:脳卒中患者でのメタ解析のレビュー









抄録
目的:膝つっぱり歩行を呈する痙性麻痺のある成人において,大腿直筋への運動分枝ブロック(motor branch block; MBB)または神経筋ブロック(neuromuscular block; NMB)の歩行遊脚期の運動学や機能的評価,エネルギーコストへの効果を決定すること.
データソース:PubMed,Embase,CINAHL,Cochrane Libraryを検索した.2013年2月26日までの研究を収集した.引用文献一覧をさらに詳しく調べた.
研究の選別:研究デザインには制限を設けなかった.患者は中枢神経疾患のある成人とした.介入はNBBまたはNMBとした.評価項目に歩行遊脚期の膝の運動学的評価が含まれていることを条件とした.研究の選別は2人の検者が別々に実行した.
データ抽出:2人の検者が対象とした研究の方法論的な質を別々に評価した.脳卒中患者における運動学・機能的評価・エネルギーコストのデータを,全患者群から可能な集団であれば抽出した.
データ統合:12の異なる研究を記載した計9編の文献を対象とした.遊脚期の膝の運動学(最大膝屈曲角または膝可動域)は対象としたすべての研究で有意に改善した.最大膝屈曲角の平均の改善幅は1.9°〜15.4°だった.脳卒中患者での最大膝屈曲角の統合データは,NMBで7.37°(P=0.000),MBBで9.35°(P=0.002)の有意な改善を示した.つま先離れ時の膝運動速度の統合データはNMBで53.01°/秒の有意な改善を示した.MBBの研究ではこの改善は有意ではなかった.膝可動域・機能的評価・エネルギーコストの統合データは有意な変化を示さなかった.
結論:このレビューから大腿直筋の化学的脱神経は遊脚期の最大膝屈曲角を有意に改善させることが示された.機能的評価・エネルギーコストへの効果は依然としてはっきりしていない.


2015年4月3日金曜日

統計ソフトEZRー導入編2(X11のインストール)ー

3段階のプロセスの2段階目です.
1.Rのインストール
2.X11のインスール(OS X Mountain Lion以降)
3.RcommanderとEZRのパッケージをインストール

このプロセスはMoutain Lion(10.8)以降,つまり,Mavericks(10.9),Yosemite(10.10)には必要ですが,Lion(10.7)以前は不要のようです.

2015年4月2日木曜日

統計ソフトEZRー導入編1(Rのインストール)ー

次にEZRの導入です.
自治医大血液内科のホームページのEZRの紹介ページにもリンクが貼ってあります.

MacでのEZRの導入は3段階のプロセスが必要です.
1.Rのインストール
2.X11のインスール(OS X Mountain Lion以降)
3.RcommanderとEZRのパッケージをインストール

このページではまずRをインストールしていきます.

2015年4月1日水曜日

統計ソフトEZRー紹介ー

EZRは自治医大の血液内科の先生が開発した統計ソフトです.
医師が開発しただけあって医学統計で用いられるような解析は概ね網羅されているといっていいと思いますが,なんといってもその素晴らしさは無料だということです.
といって,怪しげなソフトではありません.Rは統計処理に特化したコンピュター言語で,EZRは簡単にいえばそれをGUI化したものです.


私はEZRの導入にあたって以下の3冊を読みました.

2015年3月28日土曜日

American Congress of Rehabilitation Medicine Stroke Movement Interventions Sucommitteeからの足関節背屈補助および装具の代替品のための治療的電気刺激のレビュー










American Congress of Rehabilitation Medicine Stroke Movement Interventions Sucommitteeからの足関節背屈補助および装具の代替品のための治療的電気刺激のレビュー











抄録
歩行を妨げる足関節背屈の麻痺は脳卒中の患者の約30%に生じ,転倒や死亡の危険を高める.機能的電気刺激や装具代替電気刺激歩行器具の最近の進歩により,治療的な歩行訓練の期間での使用や装具の代替品としての表面電気刺激の使用が増えている.しかしながら,このような装具代替電気刺激の使用を促進できるはずのセラピストの多くがそうはしない.恐らくは,装置についての知識がないことや,どのような患者にこの装置の効果があるのかが不確かなせいであろうが,あるいは,保険会社によっては支払いをしないことも理由になっているだろう.加えて,装具代替電気刺激器具の治療的な使用や従来の短下肢装具(AFO)の代用品としての使用についてのエビデンスは限定的である.この記事では,装具代替電気刺激装置の使用について臨床家をガイドするような情報を提供し,治療的または装具としての目的での装具代替電気刺激装置の使用についての最近の研究を議論し,装具代替電気刺激装置とAFOの使用を比較する.現在のところ,装具代替電気刺激装置を着用した歩行が,AFOを着用した歩行よりも優れていると結論付けるだけの十分なエビデンスはないが,患者によっては,装具代替電気刺激装置は最適な選択肢となるかもしれない.