2015年5月22日金曜日

多発性硬化症における股関節内転筋の痙縮に対するボツリヌス毒素(Dysport®)療法:前方視・ランダム化・二重盲検化・プラセボ対象・投与量設定研究 J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000

多発性硬化症における股関節内転筋の痙縮に対するボツリヌス毒素(Dysport®)療法:前方視・ランダム化・二重盲検化・プラセボ対象・投与量設定研究










































抄録
目的−股関節内転筋の痙縮に対するDysportの安全で効果的な投与量を決定する.
方法−多発性硬化症の確定診断または疑いの患者で,両側下肢の股関節内転筋に痙縮がある患者を,4つの治療群にランダムに割り当てた.Dysport(500単位,1000単位,1500単位)およびプラセボをこれらの筋群の筋内に注射した.患者の評価は,開始時,治療後2週後,4週後(一次解析),8週後,12週後に行った.
結果−計74人の患者が募集された.開始時に治療群はよくマッチした.有効性の主要変数−他動的股関節外転,膝と膝の距離−はすべての群で改善した.1500単位群の両膝間距離は
はプラセボよりも有意に大きく改善した(P=0.02).スパズムの頻度はすべての群で減少したが,筋緊張はDysport群だけが軽減した.疼痛は全群で改善したが,衛生のスコアは1000単位群と1500単位群だけが明らかだった.効果の持続期間はDysport群ではすべてプラセボよりも長かった(P<0.05).有害事象はDysport群では32/58(55%)に報告され,プラセボでは10/16(63%)だった.投与量の少ない2群と比べると,1500単位群では有害事象の頻度が2倍だった(2.7/患者).1500単位群の筋力低下の発生(36%)はプラセボよりも高かった(6%).治療への反応は500単位群では2/3の患者で良好であり,他の群では概ね半数だった.
結論−Dysportは多発性硬化症による股関節内転筋の痙縮を軽減し,この効果は経口抗痙縮薬や鎮痛薬の併用下でも証明された.用量反応作用は統計学的には有意ではなかったけれども,高容量のDysportでは効果が大きく,持続期間が長い傾向は明らかだった.Dysportでの治療は認容性が高く,1500単位まで用量を増やしても大きな副作用はなかった.股関節内転筋の痙縮に対する最適な用量は500〜1000単位を両下肢に分配して投与することのようだ.


2015年5月15日金曜日

大腿直筋の痙縮による歩行不安定:歩行解析と運動神経ブロック Ann PhysRehab Med 2012

大腿直筋の痙縮による歩行不安定:
歩行解析と運動神経ブロック








抄録
 外傷性頸髄損傷後の右Brown-Séquardプラス症候群を呈した54歳男性を紹介する.右痙性尖足のために脛骨神経切離術と下腿三頭筋腱延長術を行った後,早歩きでの歩行障害を生じた.患者は右膝の不安定を訴えた.観察での歩行分析では支持期に右膝の動揺性の屈曲/伸展運動が見られ,歩行解析でも確認された.動的筋電図測定では支持期の右大腿直筋のクローヌスをみとめた.大腿直筋の痙性活動と右膝の異常運動は,大腿直筋の運動神経ブロック後に全体的に回復し,A型ボツリヌス毒素投与後にも同様だった.我々は複雑な痙縮による歩行障害は,歩行解析と神経ブロックを含む総合的評価によって改善しうることを強調する.

2015年5月9日土曜日

成人の痙縮におけるボツリヌス毒素療法 有効性とリスクの評価  Drug Safety 2006

成人の痙縮におけるボツリヌス毒素療法













 ボツリヌス毒素の注射は局所の痙縮治療に革命をもたらした.その到来以前は,局所の痙縮の治療は経口抗痙縮薬(これは局所でない有害事象が明らかに多かった)やフェノール注射だった.フェノール注射は実施が難しく,感覚の合併症を引き起こすことがあり,効果の程度や有効期間ははっきりしなかった.さらに,ほとんどの神経内科医はどうやって実施するのか知らなかった.というのも,それはたいていはリハ専門医の領域だったからである.ボツリヌス毒素は,局所に有効期間を予測しやすい,コントロール可能な筋力低下を生じさせることが可能で,感覚の有害事象がない.
 種々の疾患(主に脳卒中と多発性硬化症)による痙縮の患者を対象としたランダム化臨床試験では,A型ボツリヌス毒素(Dysport®とBotox®)が一時的に(約3ヶ月間)上肢の肘・手関節・手指屈曲および下肢の股関節内転・足関節底屈の痙性緊張亢進を緩和しうることが明確に示されている.このような神経学的障害の軽減による臨床的な有効性は上肢でもっともよく示されており,他動的機能の能力低下が軽減したり,介護者の負担が軽減する.下肢においては,股関節内転筋への注射により会陰の衛生が改善する.足関節底屈の筋緊張緩和による効果はそれほどよく確立されてはいない.ランダム化臨床試験では能動的機能は未だに明確に示されているわけではなく,オープンラベル試験だけである.A型ボツリヌス毒素の安全性は素晴らしいものであり,最小限の(主に局所の)有害事象があるだけである.
 痙縮におけるB型ボツリヌス毒素(Myobloc®またはNeurobloc®)の使用のデータはほとんどなく,これを調べたランダム化臨床試験だけが筋緊張の軽減を示しておらず,ドライマウスがもっとも多い有害事象のようである.フェノールとボツリヌス毒素注射の有効性ーリスクの比較を可能にするようなデータもほとんどない.それぞれに臨床的・技術的な利点と欠点があり,フェノールはボツリヌス毒素よりも大幅に安価である.