2015年5月15日金曜日

大腿直筋の痙縮による歩行不安定:歩行解析と運動神経ブロック Ann PhysRehab Med 2012

大腿直筋の痙縮による歩行不安定:
歩行解析と運動神経ブロック








抄録
 外傷性頸髄損傷後の右Brown-Séquardプラス症候群を呈した54歳男性を紹介する.右痙性尖足のために脛骨神経切離術と下腿三頭筋腱延長術を行った後,早歩きでの歩行障害を生じた.患者は右膝の不安定を訴えた.観察での歩行分析では支持期に右膝の動揺性の屈曲/伸展運動が見られ,歩行解析でも確認された.動的筋電図測定では支持期の右大腿直筋のクローヌスをみとめた.大腿直筋の痙性活動と右膝の異常運動は,大腿直筋の運動神経ブロック後に全体的に回復し,A型ボツリヌス毒素投与後にも同様だった.我々は複雑な痙縮による歩行障害は,歩行解析と神経ブロックを含む総合的評価によって改善しうることを強調する.



 下肢の痙縮に対して外科的治療とボツリヌス毒素療法を組み合わせた症例報告である.動作解析や筋電図での評価を行っており,その分析が詳細で参考にある.

 この文献の肝は反張膝の病態についてイラストで解説していることである.
 反張膝は膝の問題ではなく,足関節底屈の緊張亢進や背屈制限がベースにあり,膝だけに介入しても改善できない.つまり,膝装具や大腿四頭筋へのボツリヌス毒素療法だけでは不十分なのである.

 ただ,一方で,反張膝で歩けなくなった患者さんというのは個人的には見たことがない.つまり,痛みや膝の変形といった二次的な障害で歩行に悪影響を及ぼした方にはお会いしたことがない.また,そのような論文もお目にかかったことがない.
 セラピストの中には反張膝になるくらいなら歩かせない方がいい,と考えているのではないかと思うくらいに嫌う人もいるが,実際の歩行能力や疼痛といった指標で反張膝が本当に臨床的にターゲットとすべきエンティティなのかどうかも含めて,考える必要があるだろう.

原文はこちらから入手できます.
全文訳はこちら
パスワードは論文タイトルの単語の頭文字をつなげてください(大文字・小文字は区別して,記号はのぞいて10文字目まで).
例:Find purpose, The means will follow. -> FpTmwf

2 件のコメント:

  1. ボツリヌスと歩行についての紹介記事を興味深く拝見しました。
    家族に神経疾患による両足の歩行障害で、
    「膝つっぱり歩行」によく似た状態で、杖をついて
    何とか歩くことができる状態です。
    紹介されているボツリヌス療法などによって、
    歩行を改善することができればと考えていますが、
    国内でこうした手技が可能な病院、医師の方をご存知でしたら、
    お教えいただけませんでしょうか。
    WEBでは見つけることができませんでした。
    よろしくお願いいたします。

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    1. コメントありがとうございます.
      まず,神経疾患による歩行障害は脳卒中とは似て非なる場合もあり,ボツリヌス毒素療法が有効かどうかについては,私には判断しかねることをお断りしておきます.
      神経疾患であれば神経内科に通院中と思いますが,この治療は今ではそれほど特殊な治療ではありませんので,神経内科医であれば有効かどうかの判断も含めて相談に乗ってくれると思います.その先生がご自分で行っていないとしても,製薬会社に問い合わせると近隣で行っている病院や医師を教えてくれますので,紹介してくれると思いますよ.
      ただし,「何とか歩ける」という状態だと,下肢の緊張が落ちるとかえって歩けなくなることは脳卒中でもありますので,そういう理由でこの治療を提案されていない可能性もあります.その辺りも踏まえてよく相談されてはいかがでしょう.

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