成人の痙縮におけるボツリヌス毒素療法
ボツリヌス毒素の注射は局所の痙縮治療に革命をもたらした.その到来以前は,局所の痙縮の治療は経口抗痙縮薬(これは局所でない有害事象が明らかに多かった)やフェノール注射だった.フェノール注射は実施が難しく,感覚の合併症を引き起こすことがあり,効果の程度や有効期間ははっきりしなかった.さらに,ほとんどの神経内科医はどうやって実施するのか知らなかった.というのも,それはたいていはリハ専門医の領域だったからである.ボツリヌス毒素は,局所に有効期間を予測しやすい,コントロール可能な筋力低下を生じさせることが可能で,感覚の有害事象がない.
種々の疾患(主に脳卒中と多発性硬化症)による痙縮の患者を対象としたランダム化臨床試験では,A型ボツリヌス毒素(Dysport®とBotox®)が一時的に(約3ヶ月間)上肢の肘・手関節・手指屈曲および下肢の股関節内転・足関節底屈の痙性緊張亢進を緩和しうることが明確に示されている.このような神経学的障害の軽減による臨床的な有効性は上肢でもっともよく示されており,他動的機能の能力低下が軽減したり,介護者の負担が軽減する.下肢においては,股関節内転筋への注射により会陰の衛生が改善する.足関節底屈の筋緊張緩和による効果はそれほどよく確立されてはいない.ランダム化臨床試験では能動的機能は未だに明確に示されているわけではなく,オープンラベル試験だけである.A型ボツリヌス毒素の安全性は素晴らしいものであり,最小限の(主に局所の)有害事象があるだけである.
痙縮におけるB型ボツリヌス毒素(Myobloc®またはNeurobloc®)の使用のデータはほとんどなく,これを調べたランダム化臨床試験だけが筋緊張の軽減を示しておらず,ドライマウスがもっとも多い有害事象のようである.フェノールとボツリヌス毒素注射の有効性ーリスクの比較を可能にするようなデータもほとんどない.それぞれに臨床的・技術的な利点と欠点があり,フェノールはボツリヌス毒素よりも大幅に安価である.
最近,使用頻度が増えている痙縮へのボツリヌス毒素療法のレビューである.
まとめると安全性が高く,筋緊張緩和効果は確かであるが,機能的な改善,とくに能動的な機能については現状ではよいエビデンスがないようだ.
個人的には,ボツリヌス毒素療法で確かに歩きやすい,腕を動かしやすい,といった感想を効くことがあり,機能改善においてもボツリヌス毒素療法は有望は治療だと考えている.ただし,この改善は大まかな順序尺度で評価できるようなものではなく,もっと感度の高い評価法が必要なのだろう.
また,ボツリヌス毒素療法単独では時間とともに元に戻ってしまうのではないか.とくに上肢においては,ある程度の質と量の訓練を併用しなければ,機能的な改善が定着しないと推測される.
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