気管切開のある脳卒中患者の嚥下機能と運動学
抄録 この研究の目的は,気管切開のある脳卒中患者と気管切開のない脳卒中患者で嚥下機能とu運動学を比較することである.この後方視的対応症例対照研究で,我々は気管切開のある脳卒中患者(TRACH群24人)と気管切開のない脳卒中患者(NO-TRACH群24人)を比較した.我々は,年齢,性別,脳卒中の病型を対応させた.嚥下機能は,嚥下造影から得た嚥下造影嚥下障害スケール(VDS; videofluoroscopic dysphagia scale)と機能的経口摂取スケール(FOIS; functional oral intake scale)を用いて評価した.嚥下の運動学は,TRACH群の嚥下造影の二次元運動解析を用いて評価した.気管切開の期間は平均132.38±150.46日だった.VDSの合計点は,TRACH群(35.17±15.30),NO-TRACH群(29.25±16.66)で有意差はなかった(p=0.247).FOISは,TRACH群(2.33±1.40)で,NO-TRACH群(4.33±1.79)よりも有意に低かった(p=0.001).TRACH群では,NO-TRACH群に比べ,喉頭の最大垂直偏位(15.23±7.39mm vs 20.18±5.70mm, p=0.011),最大速度(54.99±29.59mm/s vs 82.23±37.30mm/s, p=0.011),最大二次元速度(61.07±24.89mm/s vs 84.40±36.05mm/s, p=0.013)が有意に低かった.TRACH群の舌骨の最大水平速度(37.66±16.97mm/s)もNO-TRACH群(47.49±15.73, p=0.032)よりも有意に低かった.この研究から,気管切開のある脳卒中患者は気管切開のない脳卒中患者よりも嚥下機能と嚥下の運動学が低下していることが示された.脳卒中患者における嚥下の回復への気管切開の影響を明らかにするには前方視的経時的研究が必要である.
気管切開があると,喉頭の動きが制限され,経口摂取の能力が低いというのは予想通りの結果と言えるが,一方で考察でも述べられているが,そもそも気管切開を必要とする状態になったこと自体が嚥下機能・神経学的症状が重症である可能性が高いため,気管切開自体が問題なのかという命題の回答はまだ明らかになったとは言えない.
臨床上の実感としては,確かに気管切開の影響がありそうな場合もあるけれども,そうでない症例も少なくないというのが正直なところである.
同程度の神経症状の症例で,気管切開の有無で嚥下機能を比較する,というのは事実上不可能であるから,現状では神経症状・嚥下機能をていねいに評価して判断していく他ないだろう.
日本語訳はこちらから入手できます(パスワードは論文タイトルの単語の頭文字をつなげてください.大文字・小文字は区別してください).
例:Growth is Often a Painful Process. -> GiOaPP
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