脊髄損傷の人におけるリハビリテーション訓練は,残存した神経ネットワークに働きかけ,機能回復を改善させることを目的としている.我々は,脊髄のシナプスを標的とした非侵襲的刺激と併用した運動が,機能回復をさらに促進するという仮設を立てた.慢性期不全頚髄損傷・胸髄損傷・腰髄損傷の患者25人をランダムに,皮質脊髄−運動神経対刺激(PCMS; paired corticospinal- motor neuronal stimulation)かシャムPCMSを併用した運動10セッションに割り付けた.追加の実験で,我々は,同様の特性の脊髄損傷患者13人で,運動なしでのPCMSの効果を調査した.PCMSの最中,180回の対刺激を,一次運動皮質上の経頭蓋磁気刺激によって誘発された皮質脊髄発射が,(損傷レベルに応じて)上肢または下肢の皮質脊髄−運動ニューロンシナプスに到着する時間に合わせて,末梢神経の電気刺激によって運動ニューロンにおいて逆行性電位が誘発される1-2m秒に設定した.参加者は,すべてのプロトコルのあとで45分の運動を行った.我々は,Graded and Redefined Assessment of Strength, Sensibility and Prehension(GRASSP)の下位項目を実行するのにかかる時間と10m歩行テストがすべてプロトコル後に平均で20%短縮した.しかしながら,経頭蓋磁気刺激によって誘発される皮質脊髄反応の振幅および標的となった筋の最大随意収縮の大きさはPCMS併用後では平均40−50%増大し,運動後やシャムPCMSを併用した運動後では増大しなかった.特筆すべきことに,行動上の効果や生理学的効果はPCMS併用での運動を受けた群では6ヶ月後に温存され,シャムPCMSを併用した運動を受けた群では温存されなかった.つまり,刺激は,運動による効果を維持するのに貢献したことが示唆された.我々の知見から,脊髄シナプスの標的を持った非侵襲的刺激は,異なる程度の麻痺とレベルのヒトにおいて,運動を介した回復を促進する有効な戦略を提示するかもしれない.
皮質脊髄−運動神経対刺激とは,大脳皮質運動野への磁気刺激と末梢神経への電気刺激を組み合わせて脊髄を刺激する治療法である.単に2種類の刺激を併用するのではなく,その刺激が損傷を受けた脊髄に同時に到達するようにタイミングを設定する.これはかなり複雑な刺激であって,刺激装置自体も特殊であるが,それ以上に神経電気生理学的検査についてかなりの経験がないと使いこなせないだろう.
結果はまずまず有望なものであり,不全損傷の脊髄損傷者において,機能評価および電気生理学的評価において改善が見られ,さらに重要なことは6ヶ月にもその効果が持続していたが,シャム刺激では維持されなかったということである.この対刺激が神経機能を改善させ,さらに維持するために有用だったということが示唆された結果と言える.
とはいえ,この刺激法は一般化するにはハードルが高く,多分に実験的意味合いが強い研究でもある.より簡便で普及しやすい刺激法の発見が期待される.
本文はこちらで入手できます.
日本語訳はこちら(パスワードは文献タイトルの単語の頭文字をつなげてください.大文字と小文字は区別して,記号は除いて10文字目まで).
例:Better hazard once than always be in fear. -> Bhotabif
0 件のコメント:
コメントを投稿