2015年10月29日木曜日

嚥下障害の患者における肺炎予防のための脳卒中後の予防的抗菌薬(STROKE-INF):前向き・クラスターランダム化・オープンラベル・エンドポイント秘匿化・比較対照臨床試験 Lancet 2015

 嚥下障害の患者における肺炎予防のための脳卒中後の予防的抗菌薬(STROKE-INF):前向き・クラスターランダム化・オープンラベル・エンドポイント秘匿化・比較対照臨床試験

まとめ
背景 脳卒中後の肺炎は死亡や機能予後不良と関連する.この研究では,急性脳卒中後の嚥下障害の患者における肺炎を減少させるための抗菌薬予防投与の有効性を評価した.

方法 我々は,イギリスの脳卒中ユニット48施設から募集した新規の脳卒中後の嚥下障害のある18歳以上の患者で,マスクしたエンドポイントを評価した前向き・多施設・クラスターランダム化・オープンラベル比較対照試験を行った.これらの施設はイギリスのNatioval Stroke Audit(国立脳卒中監査?)で認可され,対象となった施設とした.抗菌薬の禁忌のある患者,元々嚥下障害のあった患者,既知の感染症,14日以上の生存が予測されない患者は除外した.我々は,脳卒中ユニットを1:1に分け,脳卒中発症から48時間以内にユニットに入院した患者に関して,標準的脳卒中ユニットの治療に加え7日間の予防的抗菌薬を処方するユニットと標準的脳卒中ユニットの治療のみユニットに分けた.入院施設と専門家の治療へのアクセスによる最小限の階層化を行ったランダム化した.評価と解析を行う患者とスタッフは脳卒中ユニットの割当は盲検化された.主要評価項目は,脳卒中発症から14日以内の脳卒中後の肺炎で,治療企図解析において,診断基準に基いた階層的アルゴリズムと臨床医の診断で評価した.安全性も治療企図解析で評価した.この試験は新奇の参加者には公開しておらず,isrctn.comに登録した.

知見 2008年8月21日から2014年5月17日の間に,脳卒中ユニット48施設(ユニットに1224人の患者が入院)を2つの治療群に割り当てた.24施設が抗菌薬,24施設が標準的治療単独(コントロール)である.11ユニットで7人の患者がランダム化から14日目までに脱落し,治療解析には37施設1217人が残った(抗菌薬群615人,コントロール602人).予防的抗菌薬は,アルゴリズムで判定した脳卒中後の肺炎発生率には影響しなかった(抗菌薬群564人中71人(13%) 対 コントロール群524人中52人(10%),限界調整オッズ比1.12[95%信頼区間0.71〜2.08],p=0.489,級内相関係数0.06[95%信頼区間0.02〜0.17]).アルゴリズムで判定した脳卒中後の肺炎は129人(10%)の患者でデータがないために確認できなかった.さらに,我々は,臨床医の診断による脳卒中後の肺炎の群間の差をみとめなかった(615人中101人(16%) 対 602人中91人(15%),調整オッズ比1.01[95%信頼区間0.61-1.68],p=0.957,級内相関系数0.08[95%信頼区間0.03-0.21]).もっとも多かった有害事象は脳卒中後の肺炎とは無関係の感染症(主に尿路感染)で,抗菌薬群の方が少なかった(615人中22人(4%) 対 602人中45人(7%),オッズ比0.55[95%信頼区間0.32-0.92],p=0.02).Clostridium difficile陽性の下痢は抗菌薬群に2%(<1%),コントロール群に4人(<1%)みられ,MRSAのコロニー形成は抗菌薬群11人(2%),コントロール群14人(2%)にみられた.

解釈 脳卒中ユニットで治療中の脳卒中の嚥下障害の患者において脳卒中後肺炎の予防をための抗菌薬投与は推奨されない.


 脳卒中後の嚥下障害のある患者に発症から2週間だけ肺炎予防の抗菌薬を投与しても,肺炎の予防や機能的予後は改善しないという研究.


 現状でも予防投与は一般的ではないわけだが,このような研究できちんとネガティブデータを示すことは大切だろうと思われる.

 考察でも述べられている通り,誤嚥性肺炎の発症は病原体の要因だけでなく,喀出能力や栄養状態/免疫機能も大いに関係している.個人的には抗菌薬で予防するというのは本質とかけ離れた対応であり,胃排出能を亢進させる薬剤や嚥下反射を改善させる薬剤といった方法の方が理にかなっているし,これらは質は高くないがエビデンスもある.

 結論には意義はないが,少々気になるのは,嚥下障害の判定基準が明確でないこと,2週間だけの投与で90日目までの評価を行っているので長期投与の有効性まで検証したわけでないこと,の2点である.嚥下障害の状態によっては長期投与で予防できる症例は皆無ではない可能性はある.

 余談ではあるが,脳卒中の合併症(抑うつや疼痛)の”予防”を目的とした試験はよい結果が出たものを見たことがない(勉強不足かもしれないが).
 脳卒中は患者数が多いので製薬会社としては予防で数を売りたいのかもしれないが,臨床はそんなに簡単なものではない.

全文訳はこちら
パスワードは論文タイトルの単語の頭文字をつなげてください(大文字・小文字を区別して10文字目まで).
例:Of two evils choose the less. -> Otectl

2 件のコメント:

  1. ロ腔ケアによる肺炎予防効果が高齢者で確認されたstudyは何件かあったと思います。

    抗生剤の長期投与により高率に耐性菌の誘導を引き起こすこと、耐性菌は水平伝播により容易に周囲に拡散し環境中に存在し続けうること(入院患者から検出された耐性菌のゲノム検索で、別理由による病棟閉鎖期間をはさんだ長期間に渡って同ー病棟で同ー株が検出されつづけた例が感染症学会だったか化学療法学会だったかで報告されています。)まで考慮すると、誤嚥性肺炎予防目的のみの理由での抗生剤長期投与は到底容認され得ないと考えます。

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    1. 薬物療法以外なら経管栄養後のリクライニングもエビデンスがあると思います.胃瘻は経鼻胃管よりも肺炎は予防しないし,固型化栄養も肺炎予防効果はたぶん示されていないでしょう.
      抗菌薬で予防しようというのは少々安易な発想かなと思います.

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