脳卒中後の上肢に対するボツリヌス毒素(BoTULS)試験
障害,活動制限,疼痛への効果
背景と目的−ボツリヌス毒素は,脳卒中による上肢の痙縮治療のためにますます使用されるようになっている.しかし,その上肢機能への効果ははっきりしていない.我々は,脳卒中後の上肢痙縮と機能に対するボツリヌス毒素を評価した.
方法−上肢痙縮と上肢機能低下のある脳卒中患者333人が,多施設ランダム化比較対照試験に参加した.介入群はA型ボツリヌス毒素注射と4週間の治療プログラムを受けた.コントロール群は治療プログラムのみを受けた.治療の繰り返しは,3,6,9ヶ月目に可能とした.主要評価項目は1ヶ月後の上肢機能(Action Research Arm Test)である.二次評価項目は,1,3,12ヶ月後の障害,活動制限,疼痛である.評価項目の評価はもう喧嘩し,解析は治療企図解析として行った.
結果−1ヶ月後の上肢機能(Action Research Arm Test)改善の達成において有意差はなかった(介入群42/167[25%],コントロール群30/154[19.5%];p=0.232).介入群に優位な有意差は以下に見られた;1ヶ月後の筋緊張,3ヶ月後の上肢筋力,1・3・12ヶ月後の基本的な上肢機能課題(手の衛生,更衣を容易にする),12ヶ月後の疼痛.
結論−A型ボツリヌス毒素は,脳卒中後の痙縮のある患者の大多数では,能動的上肢機能の改善において有効ではないないようだ.しかし,基本的な上肢課題(手の衛生,更衣を容易にする)と疼痛を改善させるかもしれない.
この論文へのletterでは,エコーや神経電気刺激を使って標的筋をしっかり同定していないこと,投与量が少ないこと,そもそもボツリヌス毒素は筋収縮をブロックするのは筋力で機能的変化をとらえるのは難しいこと(この点は私としては異論があるが),といった問題点が指摘されている.
私個人の感想としては,脳卒中全体の傾向を見るためにあえて適応を広く対象としている.しかし,そのことで能動的機能に関してはあまり効果の期待できない症例を対象としてしまい,統計学的有意差が出なかった可能性があると思う.
筋活動の治療ターゲットは痙縮だけではない.痙性共収縮や痙性ジストニアといった随意運動に伴って生じる過活動はボツリヌス毒素で抑制できる可能性があると考えるが,その効果をうまくとらえるには対象の基準と投与法,評価法を十分吟味する必要があるだろう.
論文はこちらから入手できます.
日本語訳はこちら(パスワードは論文タイトルの単語の頭文字をつなげてください.記号は含めないでください,大文字・小文字は区別して10文字目まで).
例:A Picture is Worth a Thousand Words. -> APiWaTW
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