呼吸器感染における口腔細菌の役割
歯周病のような口腔の疾患といくつかの呼吸器の疾患の間の関連性が指摘されてきた.例えば,最近のエビデンスでは,呼吸器感染のプロセスにおける口腔の中心的役割が示唆されている.口腔の歯周病原菌は肺に誤嚥されて誤嚥性肺炎の原因になり得る.歯も呼吸器病原体のコロニー形成と続発する院内肺炎の温床として働くかもしれない.典型的な呼吸器病原体は,病院のICU患者や介護施設入所者の歯のプラークでコロニー形成していることが示されてきた.一旦,口の中で発生すると,このような病原体は肺の中への誤嚥され,感染を生じるかもしれない.そのほかの疫学研究で,口腔衛生不良もしくは歯周骨の欠損と,慢性閉塞性肺疾患の間の関連性が記載された.呼吸器感染の発症機序における口腔細菌の潜在的な役割を説明するようないくつかのメカニズムが提唱されている:1.感染を引きこすような口腔病原体(つまり,Porphyromonas gingivalisジンジバリス菌,Actinobacillus actinomysetemcomitansアクチノミセス・アクチノミセテムコミタンス,など)の誤嚥;2.唾液中の歯周病関連酵素が粘膜表面を変化させ,呼吸器病原体の付着とコロニー形成を促進する;3.歯周病関連酵素が病原細菌上の唾液ペリクルを破壊し,粘膜表面からのクリアランスを遅らせる;4.歯周組織に由来するサイトカインが,気道上皮を変性させ,呼吸器病原体による感染を促進する.
口腔ケアの重要性はすでに広く浸透していると思われるが,う歯やプラークが肺炎発生にどのように関与しているかについては,単純に細菌の繁殖した唾液が誤嚥されると考えがちではなかろうか(私自身,そう考えていた).
もちろん,そのような機序も考えられるが,他にも,歯周病によって産生されるサイトカインや酵素も影響しているという仮説が解説されている.このような物質は,気道上皮に影響して細菌が肺に定着しやすくなる要因となり,肺炎発生に影響しているというのである.このような状態では少量の誤嚥であっても肺炎につながる可能性が高まると考えられる.
証明されていない(という証明が難しい)機序でもあり,仮説以上ではないのかもしれないが,大変興味深い記事である.
細菌の誤嚥以外の要素の関与が大きいとすれば,露出しているう歯だけ治療しても不十分で歯周病をしっかりと治療する必要があるし,また,誤嚥性肺炎の予防として気道上皮の粘膜保護という治療戦略も考えられるかもしれない.
日本語訳はこちらからダウンロードできます(パスワードは文献タイトルの単語の頭文字をつなげてください.大文字と小文字は区別して10文字目まで).
例:He Who is No Courageous Enough to Take Risks will Accomplish Nothing in Life. -> HWiNCEtTRw
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