体性感覚入力によるヒトの皮質興奮性の調節
ヒトでは,体性感覚刺激が刺激された身体部位への皮質運動ニューロンの興奮性の亢進を引き起こす.この研究の目的は,その基礎となるメカニズムを調べることである.我々は,経頭蓋磁気刺激に対する短母指外転筋・第一背側骨間筋・小指外転筋からの運動誘発電位(motor evoked potentials; MEPs)を記録した.MEPの振幅,動員曲線,皮質内抑制(intracortical inhibition; ICI),皮質内促通(intracortical facilitation; ICF),安静時運動閾値(resting motor threshold; rMT)および活動時運動閾値(active motor threshold)を,2時間の手首での尺骨神経刺激の前後に記録した.皮質と皮質下の部位に興奮性の変化を区別するために,我々は,最大上末梢M波と脳幹電気刺激へのMEPを記録した.GABA作動性の機序の関与を調べるために,我々は,ロラゼパム(GABAA受容体作動薬)の影響を,デキストロメトルファン(NMDA受容体拮抗薬)およびプラセボと二重盲検デザインで比較して調べた.体性感覚刺激が小指外転筋においてのみ経頭蓋磁気刺激に対するMEPを増大させることがわかり,過去の報告が確認された.この効果はロラゼパムで拮抗されたが,デキストロメトルファンとプラセボでは拮抗されず8〜20分持続した.以下をみとめなかった;(i)脳幹電気刺激によるMEPの変化,(ii)早期体性感覚誘発電位の振幅の変化,(iii)M波の変化.我々は,体性感覚刺激が皮質運動ニューロンの興奮性の局所的な亢進を生じさせると結論づけた.この亢進は刺激時間よりも長く持続し,おそらく皮質の部位で生じるだろう.ロラゼパムの拮抗作用は,調整機序としてのGABA系の関与の仮説を支持している.
体性感覚への電気刺激による脳の可塑性変化への影響の機序についての研究である.
結論としては,体性感覚への電気刺激は,その領域にある筋の運動閾値を変化させ,この変化は同じ神経の運動支配であっても感覚支配の領域になければ生じない(入力された神経の支配筋すべてに効果があるわけではない).この変化は大脳運動皮質のレベルで生じるものであり,恐らくはGABA系の影響で生じているだろう,ということである.
麻痺のリハではどうしても出力の部分に目が行きがちであるが,感覚入力を同時に増やすことで脳の可塑性を引き出すことができるかもしれない.可塑性変化が生じやすい状態を作ってやって,リハ訓練を併用することで効果を高めるという発想はrTMSやtDCSと同じである.感覚刺激は,脳への介入との併用も可能であり,有望な方法と言える.
適応基準や刺激の方法,課題の選択など課題は多いが,リスクが少なく,比較的安価であり,応用範囲も広いと思われるため,可能性のある介入法である.今後の研究が期待される.
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例:What is not started today is never finished tomorrow. -> Winstinft
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