2021年5月3日月曜日

嚥下障害のある成人に対する経皮的内視鏡的胃瘻造設術対経鼻胃管栄養(レビュー) Cochrane Database Syst Rev 2015


 嚥下障害のある成人に対する経皮的内視鏡的胃瘻造設術対経鼻胃管栄養(レビュー)


抄録

背景

 数多くの病態が消化管に沿った食物の通過を損なう.経鼻胃管栄養は古典的で,実績のある手法である.とはいえ,その長期的な使用は,鼻翼の病変や慢性鼻副鼻腔炎,胃食道逆流,誤嚥性肺炎といった合併症を引き起こし得る.もう1つの注入方法である経皮的内視鏡的胃瘻造設(PEG, Percutaneous Endoscopic gastrostomy)は,長期間,経腸栄養の必要性があると一般に用いられている.嚥下障害のある患者においてPEGについて高い必要性がある.とはいえ,経鼻胃管と比較した有効性・安全性について一貫したエビデンスはない.



目的

 嚥下障害のある成人に対して,経鼻胃管と比較したPEGの有効性と安全性を評価すること.



検索戦略

 我々は,開始から2014年8月までのThe Cochrane Library,MEDLINE,EMBASE,LILACSを検索し,対象領域の筆頭著者と連絡をとった.検索には言語の制約を設けなかった.



選択基準

 我々は,何らかの背景疾患で嚥下障害があり栄養サポートの適応のある成人に対するPEGと経鼻胃管を比較したランダム化比較対照試験を対象とすることを計画した.主要評価項目は,介入失敗(例えば,栄養投与の中止,チューブの閉塞や漏れ,治療アドヒアランス不良)である.



データ収集と分析

 我々は,The Cochrane Libraryから求められる標準的方法論的手法を用いた.二分変数と連続変数について,我々は,相対リスク(RR, risk ratio)と平均差(MD, mean difference)を,それぞれランダム効果統計モデルと95%信頼区間(CI, confidence interval)で用いた.我々は,I2>50%をもって統計学的異質性と推定した.



主な結果

 我々は,アウトカムデータのメタ解析16篇を作り出した参加者735人での11篇のランダム化比較対照研究を対象とした.メタ解析から,介入失敗の主要評価項目は,8研究,参加者408人で,経鼻胃管に比べてPEGの参加者で割合が低く(相対リスク0.18, 95%信頼区間0.05-0.59),この差は統計学的に有意だった.この評価項目について,我々はPEGの手技によって,プル法プッシュ法報告なしによる研究にサブグループ化した.我々は,プル法サブグループではPEGが良好な有意差をみとめた(相対リスク0.07,95%信頼区間0.01-0.35,3研究,参加者90人).プッシュ法サブグループは臨床研究1篇しかなく,結果はPEGが良好だった(相対リスク0.05,95%信頼区間0.00-0.74,1研究,参加者30人).手技が報告されていない場合,統計学的有意差をみとめなかった(相対リスク0.43,95%信頼区間0.13-1.44,4研究,参加者285人).


 二次評価項目は,死亡率(相対リスク0.86,95%信頼区間0.58-1.28,参加者644人,9研究,とても低い質のエビデンス),いずれかの追跡時点での何らかの有害イベント(治療企図解析,相対リスク0.83,95%信頼区間0.51-1.34,参加者597人,6研究,中等度の質のエビデンス),(誤嚥性)肺炎を含む特定の有害イベント(相対リスク0.70,95%信頼区間0.46-1.06,参加者645人,7研究,低い質のエビデンス)には統計学的有意差がなく,終了時のベースラインからの体重変化や上腕周囲径を含む栄養状態でのメタ解析でも統計学的有意差はなかった.しかし,上腕周囲径のベースラインからの変化のメタ解析でPEGが良好(平均差1.16,95%信頼区間1.01-1.31,参加者115人, 2研究)とPEGグループで血清アルブミン濃度がより高い(平均差6.03,95%信頼区間2.31-9.74,参加者107人)というエビデンスがあった


 経腸栄養の期間の二次評価項目のメタ解析については統計学的有意差はなかった(平均差14.48,95%信頼区間-2.74-31.71,参加者119人, 2研究).参加者133人での 2研究における生活の質(EuroQol)のメタ解析では,不便さ(相対リスク0.03,95%信頼区間0.00-0.29),不快感(相対リスク0.03,95%信頼区間0.00-0.29),身体イメージの変化(相対リスク0.01,95%信頼区間0.00-0.18; P=0.001),社会活動(相対リスク0.01,95%信頼区間0.00-0.18)について,介入はPEGが良好であり,つまり,PEG介入で不便さや不快感,社会活動の障害を感じた参加者がより少なかった.しかしながら,疼痛や使い方の学習の容易さ,あるいは在院日数の二次評価項目( 2研究,参加者381人)では群間の差はなかった.



著者らの結論

 PEGは,介入失敗の可能性が低く,内視鏡的手技が経鼻胃管と比べて,より有効で安全であるかもしれないことを示唆している.比較群の間に死亡率や,誤嚥に関連した肺炎を含む有害イベントには有意差はなかった.将来の研究では,基礎疾患や年齢,性別を含む人口統計学的データ,および胃瘻造設手技の詳細を含めるべきである.


 経皮的内視鏡的胃瘻造設術(PEG)と経鼻胃管を比較したメタ解析によるレビューである.臨床現場でもしばしば関心の対象となるテーマと思われる.2015年とやや古いが,Cochrane Labraryとしてはこれが最新のようで,そろそろアップデートされるかもしれない.

 結論としては,栄養管理の継続に関してはPEGが良好であるが,死亡や肺炎を含む有害イベント,栄養状態に関しては統計学的有意差はなかった.肺炎に関しては,相対リスク0.7,95%信頼区間0.46-1.06と境界域ではあるものの,統計学的有意にはならなかった.

 また,栄養管理の利便性や不快感,社会的活動といった指標においてはPEGが良好であった.

 これらは,PEGは経鼻胃管と比べて,純医学的な効果,つまり生命予後や合併症に関しては差はなく,QOL改善のために行うべき,という従来の結論から変化はないと思われる.

 ただし,肺炎に関しては,個人的には,相対リスク0.7という結果は,すべての症例において,肺炎発生率が3割減少するというよりは,多くの症例は効果がないが,肺炎予防効果がある症例が一部にいて,ならすと3割減というのが正しいような気がする.
 言い換えれば,症例を選べば,肺炎予防効果は期待できるかもしれない.

本文はこちらか入手できます.
日本語訳はこちら(パスワードは文献タイトルの文献タイトルの単語の頭文字をつなげてください.大文字と小文字は区別して,記号は除いて10文字目まで).

例:Information is not knowlegde. -> Iink

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