嚥下障害の重症度の予測:延髄外側梗塞の患者にのける嚥下障害のパターンの調査
抄録
目的 延髄外側梗塞後のWallenberg症候群を生じた患者における嚥下機能に影響する因子を判定するために,我々は患者の様々な特性を調べた.項目には,上部食道括約筋を通過する食塊の通過パターンの異常(PPA; passege pattern abnormality)を含めた.
方法 嚥下障害のある延髄外側梗塞のみの患者54人がこの研究に参加した.PPAは,延髄の梗塞側に対応した上部食道括約筋を通る食塊の通過不全と定義し,患者ごとの嚥下造影検査で判定した.脳MRIでは,被験者の病変を,疑核/孤束核への関与に関連して,垂直方向に3つのレベルに,水平方向に7つのレベルに分類した.年齢,性別,PPA,病変の垂直/水平部位についてロジスティック回帰分析を行なった.
結果 重症度の点では,軽度の嚥下障害を有していると分類された被験者は15人,中等度の嚥下障害が26人,重度の嚥下障害が13人だった.頭側の病変のある被験者は,病変が垂直方向に広がっているほどPPAは重度の嚥下障害が多いようだった.PPAと病変の垂直方向への大きく広がっていることは機能予後の重症度と関連していた(p<0.01).水平方向の大きさは予後とは強く関連しなかった.
結論 延髄外側梗塞におけるPPAの存在は,嚥下パターンの異常,つまり,延髄中枢パターン発生器の損傷を示唆するものである.PPAの存在と病変の垂直方向の大きさは重度の嚥下障害の有用な予測因子になり得る.
延髄外側梗塞による嚥下障害の予後予測に関する研究である.
延髄外側梗塞では,食道入口部の通過障害があって,頭側に病変が広がっていると嚥下機能の予後が不良であるという結論であるが,そのメカニズムの説明が興味深い.
つまり,嚥下病変では嚥下の中枢パターン生成器が損傷を受ける場合と受けない場合があるが,損傷を受けた場合は当然のことながら嚥下の予後は不良であり,延髄病変が縦に長い場合,特に頭側に長く分布する場合に中枢パターン生成器に損傷を受ける可能性が高いというものである.
延髄外側梗塞では,疑核や孤束核といった迷走神経の神経核が重視されているように思うが,あまり関連しなかったという結果であるのも興味深い.
個人的な話になるが,もう10年以上前に,ある病院で嚥下リハについて講演したときに,STから,「延髄の上部に病変があると嚥下障害が生じやすいというのは本当でしょうか?」という質問を受け,返答に困ったことがある.
この論文でもそのような引用があり,引用文献が1994年となっていたので,その質問には根拠があったというわけである.今さらではあるが,引用元を次に読んでみようと思う.
本文はこちらから入手できます.
日本語訳はこちら(パスワードは文献のタイトルの単語の頭文字をつなげてください.大文字と小文字を区別して10文字目まで).
例:Do One Thing Everyday That Scares You. -> DOTETSY
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