2015年3月19日木曜日

膝つっぱり歩行を呈する痙縮を伴う脳卒中患者の歩行コントロールにおけるボツリヌス毒素注射の効果 Gait & Posture 2009







膝つっぱり歩行を呈する痙縮を伴う脳卒中患者の歩行コントロールにおけるボツリヌス毒素注射の効果

















抄録
緒言:A型ボツリヌス毒素(BoNT-A)注射は,膝つっぱり歩行を呈した痙性片麻痺の脳卒中患者における歩行障害と活動を改善させることが知られている.この研究の目的は,BoNT-A注射後に,歩行中の機械的変数の改善がどのように中枢神経系にコントロールされているかを理解することである.それゆえ,我々は,その歩行のコントロールへの影響を評価するためにKinematic Segmental Coodination(KSC),つまり下肢の分節の間の仰角の運動学的共変動の規則性を用いた.我々の知る限り,これは過去に研究されたことはない.
方法:膝つっぱり歩行を呈する脳卒中慢性期の片麻痺患者20人が,BoNT-Aをいくつかの痙縮の筋に注射する前と2ヶ月後に,機械的計測での歩行解析を同じ歩行速度で行った.我々は,Catyらが過去に収集した運動学的記録を使用し,Borgheseの方法にしたがってコンピュータ処理したKSCを用いた.治療効果は反復測定での分散分析を用いて検定した.
結果:BoNT-A注射は両下肢のKSCにおける統計学的な有意な改善をもたらした(p=0.004).さらに非障害側のKSCはBoNT-A後には正常値となった.
結論と考察:BoNT-Aは障害側の下肢のKSCを改善し,非障害側の下肢のKSCを正常化した.この改善は機械的な効果かもしれないし,脊髄の中枢パターン発生器(CPGs)を介したBoNT-Aの中枢への効果かもしれない.






 脳卒中片麻痺歩行に対する片麻痺ボツリヌス毒素の効果を運動学的に評価した研究であるが,この研究で面白いのは,下肢の筋・関節運動の自由度の高さと歩行の重心移動の単純さのギャップを解消するメカニズムとして考察していることである.

 歩行という動作は意図的に下肢を動かしながらもできるが,無意識でも可能である.これは,歩行運動を大脳ですべて制御しているわけでなく,腰髄のcentral pattern generatorでも制御されているためと思われるが,その制御の意義として,運動自由度の低減というのは面白い.つまり,CPGで行っているのは個々の筋の活動パターンの発生ではなく,パターンはどうあれ,重心運動の自由度を下げることだということである.

 この研究では,ボツリヌス毒素療法は下肢の運動のパターンを正常に近づける効果があった.膝を突っ張って歩くと関節の動きは制限されて下肢の運動の自由度は下がるはずだが,これでは重心運動の滑らかにならず,結果的にCPGが十分に機能できていない状態になるということだろう.

 リハ医は,ボツリヌス毒素療法は単に筋緊張を下げるだけでなく,運動制御のこのようなレベルにも効果が期待できる治療であることを認識して治療戦略を考えるべきである.

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例:The time is always right to do what is right. -> Ttiartdwir

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