2017年12月31日日曜日

体性感覚入力によるヒトの皮質興奮性の調節 J Physiol 2002


体性感覚入力によるヒトの皮質興奮性の調節


















ヒトでは,体性感覚刺激が刺激された身体部位への皮質運動ニューロンの興奮性の亢進を引き起こす.この研究の目的は,その基礎となるメカニズムを調べることである.我々は,経頭蓋磁気刺激に対する短母指外転筋・第一背側骨間筋・小指外転筋からの運動誘発電位(motor evoked potentials; MEPs)を記録した.MEPの振幅,動員曲線,皮質内抑制(intracortical inhibition; ICI),皮質内促通(intracortical facilitation; ICF),安静時運動閾値(resting motor threshold; rMT)および活動時運動閾値(active motor threshold)を,2時間の手首での尺骨神経刺激の前後に記録した.皮質と皮質下の部位に興奮性の変化を区別するために,我々は,最大上末梢M波と脳幹電気刺激へのMEPを記録した.GABA作動性の機序の関与を調べるために,我々は,ロラゼパム(GABAA受容体作動薬)の影響を,デキストロメトルファン(NMDA受容体拮抗薬)およびプラセボと二重盲検デザインで比較して調べた.体性感覚刺激が小指外転筋においてのみ経頭蓋磁気刺激に対するMEPを増大させることがわかり,過去の報告が確認された.この効果はロラゼパムで拮抗されたが,デキストロメトルファンとプラセボでは拮抗されず8〜20分持続した.以下をみとめなかった;(i)脳幹電気刺激によるMEPの変化,(ii)早期体性感覚誘発電位の振幅の変化,(iii)M波の変化.我々は,体性感覚刺激が皮質運動ニューロンの興奮性の局所的な亢進を生じさせると結論づけた.この亢進は刺激時間よりも長く持続し,おそらく皮質の部位で生じるだろう.ロラゼパムの拮抗作用は,調整機序としてのGABA系の関与の仮説を支持している.

2017年12月21日木曜日

脳卒中患者における手と腕の機能の回復のための感覚電気刺激:文献のレビュー J Nov Physiother 2012












脳卒中患者における手と腕の機能の回復のための感覚電気刺激:文献のレビュー













抄録


背景:感覚振幅電気刺激は,皮質の興奮性に変化を生じさせると報告されてきた.このレビューの目的は,脳卒中患者における手と腕の機能に対する感覚電気刺激の効果を評価することである.


結果:10編の研究がこのレビューの対象として適切とみなされた.10研究のうちの6編はPEDroスコアを提供し,平均(SDは5.7(1.0)だった.どの研究にも有害な影響はなかった.1研究だけ,急性期脳卒中の患者が対象となっていた.軽度の腕の麻痺の患者が研究が多かった.ほとんどの研究で,感覚電気刺激を麻痺側の手関節(正中神経と尺骨神経)にパルス幅1msecで10Hzを2時間与えた.5編の研究で,腕と手の機能を改善させるためには,感覚電気刺激は単独では用いるべきではなく,課題訓練を併用すべきと報告した.

結論:感覚電気刺激は,軽度の腕の麻痺の患者において,機能的課題訓練と併用すると,手と腕の機能を改善するかもしれないが,方法論的に質の高い研究はなかった.さらに,感覚電気刺激が重度の麻痺の患者に効果があるかどうか,急性期に効果があるかどうかは不明である.それゆえ,このレビューの結果は,適切なランダム化比較対照試験がないために依然として結論は出ていない.


2017年12月17日日曜日

脳卒中リハビリテーションのための神経筋電気刺激において用いられるデバイスのレビュー Med Devices 2017


脳卒中リハビリテーションのための神経筋電気刺激において用いられるデバイスのレビュー


抄録:神経筋電気刺激,とりわけ随意運動を代償する機能的電気刺激および筋力強化と麻痺からの回復を目的とした治療的電気刺激は,脳卒中リハビリテーションに広く用いられている.筋収縮の電気刺激は,麻痺を回復させるために意図的な運動と同期しているべきである.したがって,神経筋電気刺激装置は,運動強度に伴う筋電図や脳波をモニターして,これらをトリガーとして使用するものが開発された.筋電図や脳波に基づいて,同時に神経筋電気刺激の強度を調整するような装置も提案されている.神経筋電気刺激の装置や刺激法の多様性のために,今回のレビューの目的は,製品化された機能的電気刺激装置と治療的電気刺激と,その適用方法を紹介することである.適用方法は脳卒中患者の状態によって決定し,麻痺の程度が挙げられる.


2017年12月3日日曜日

無症候性甲状腺機能異常と骨折リスク:メタ解析 JAMA 2015


無症候性甲状腺機能異常と骨折リスク:メタ解析









抄録
重要性−無症候性甲状腺機能異常と骨折の間の関連性は不明であり,臨床試験はない.

目的−無症候性甲状腺機能異常と股関節・脊椎以外・脊椎または何らかの骨折の間の関連性を評価すること.

データ元と研究の選択−MEDLINE,EMBASEのデータベース(開始から2015年3月26日)で,甲状腺機能のデータと続発する骨折での前方視的コホート研究について,言語の制限なく検索した.

主要評価項目と評価法−主要評価項目は股関節骨折とした.何らかの骨折,脊椎以外の骨折,臨床的な脊椎骨折を二次評価項目とした.

結果−70,298人の参加者のうち,4,092人(5.8%)に無症候性甲状腺機能低下症があり,2,219人(3.2%)が無症候性甲状腺機能亢進症があった.追跡期間762,401人−年の間,股関節骨折は2,975人(4.6%;12研究),何らかの骨折は2,528人(9.0%;8研究),脊椎以外の骨折は2018人(8.4%;8研究),脊椎骨折は296人(1.3%;6研究)に生じた.年齢調整解析と性別調整解析では,無症候性甲状腺機能亢進症 対 甲状腺機能正常のハザード比は,股関節骨折については1.36(95%信頼区間1.13〜1.64;2,082人の参加者に146イベント 対 56,471人で2534イベント);何らかの骨折ではハザード比1.28(95%信頼区間1.06〜1.53;888人の参加者で121イベント 対 25,901人で2203イベント);脊椎以外の骨折はハザード比1.16(95%信頼区間0.95〜1.41;946人の参加者で107イベント 対 21,722人で255イベント);脊椎骨折ではハザード比1.51(95%信頼区間0.93〜2.45;732人の参加者で17イベント 対 20,328人で255イベント).TSHが低いほど骨折の頻度が高かった:TSH0.10mIU/L未満では股関節骨折に対してハザード比1.61(95%信頼区間1.21〜2.15;510人の参加者で47イベント);何らかの骨折に対してハザード比1.98(95%信頼区間1.41〜2.78;212人の参加者で44イベント);脊椎以外の骨折に対してハザード比1.61(95%信頼区間0.96〜2.71;185人の参加者で32イベント);脊椎骨折に対してハザード比3.57(95%信頼区間1.88〜6.78;162人の参加者で8イベント).他の骨折の危険因子について調整した後もリスクは同様だった.内因性無症候性甲状腺機能亢進症(甲状腺剤使用者を除く)は,股関節骨折に対してハザード比1.52(95%信頼区間1.19〜1.93),何らかの骨折に対してハザード比1.42(95%信頼区間1.16〜1.74),脊髄骨折に対してハザード比1.74(95%信頼区間1.01〜2.99)だった.無症候性甲状腺機能低下症と骨折リスクの間には関連性はみとめなかった.

結論と関連性−無症候性甲状腺機能亢進症は股関節骨折や他の骨折のリスク増大と関連し,特にTSH濃度が0.10mIU/L未満の患者や内因性無症候性甲状腺機能亢進症で顕著だった.無症候性甲状腺機能亢進症を治療すると骨折を予防できるかどうかを判定するためにさらなる研究が必要である.

2017年11月21日火曜日

癌のない成人についての経静脈栄養と経腸栄養の短期的な死亡と合併症の比較:全国入院患者データベースを用いたプロペンシティマッチ(傾向一致)解析 Am J Clin Nutr 2015


癌のない成人についての経静脈栄養と経腸栄養の短期的な死亡と合併症の比較:全国入院患者データベースを用いたプロペンシティマッチ(傾向一致)解析
























抄録
背景:正常に食べられない患者にとって,適切な人工栄養は,高齢者医療や在宅医療においては,現在進行形の解消されない問題である.経静脈栄養と経腸栄養という人工栄養の2つの方法の間の予後の違いには論争が巻き起こっている.
目的:正常に食べられない患者にとっての経静脈栄養と経腸栄養の短期帰結を比較し解析した.
デザイン:日本の1057病院をカバーする全国入院患者データベースから選択された患者から,データを入手した.参加者は,2012年4月から2013年3ヶ月の間に人工栄養を受けた患者で,20歳以上で癌のない患者である.彼らは2群に分けられた:経静脈栄養を受けた患者と経腸栄養を受けた患者である.我々は,グループ間で1対1傾向スコアマッチングを行なった.主要評価項目は人工栄養を開始してから30日後と90日後の死亡率である.二次評価項目は,人工栄養後の合併症,肺炎,敗血症である.我々は,人工栄養後の生存在院日数をCox比例ハザードモデルを用いて解析した.
結果:経静脈栄養群には3750人,経腸栄養群には22,166人の患者がいた.傾向スコアマッチングで2群で2912組のペアが生成された.ベースラインの病状から計算された傾向スコア(経腸栄養に割り当てられる可能性)が同等の患者をマッチさせた.人工栄養開始から30日後の死亡率は,経静脈栄養群と経腸栄養群でそれぞれ7.6%,5,7%(P=0.003)m,90日後はそれぞれ12.3%,9.9%(P=0.002)だった.Cox回帰分析では,経静脈栄養に対する経腸栄養のハザード比は0.62(95%信頼区間:0.54〜0.71;P<0.001)だった.人工栄養後の肺炎の発生率は,経静脈栄養群と経腸栄養群でそれぞれ11.9%,15.5%(P<0.001)で,敗血症は4.4%,3.7%(P=0.164)だった.
結論:この解析で,癌のない成人では経静脈栄養と比べて経腸栄養で生存率が良好であることが示された.この試験はclinicaltrails.govにNCT02512224で登録されている.

2017年11月17日金曜日

急性脳梗塞での両側声帯麻痺 Cerebrovasc Dis 1999

 
急性脳梗塞での両側声帯麻痺























抄録
声帯は,迷走神経の分枝である反回喉頭神経から神経の供給を受けている.大脳運動皮質は,皮質延髄路から延髄の迷走神経核にある運動核(疑核)に発射する.迷走神経は,頸静脈孔から頭蓋の外に出て,頸動脈鞘を通って伸びる.左迷走神経は大動脈弓で左反回喉頭神経となって上がっていき,一方,右迷走神経は鎖骨下動脈で反回喉頭神経となって上がっていく.この経路が何らかの問題で破綻すると片側の声帯麻痺を引き起こす.運動皮質に影響を与える脳卒中では片側声帯麻痺を生じない.なぜなら,迷走神経核は両側の脳から皮質延髄路を受けているからである.我々は,この経路とは関連しない片側の右島皮質の脳卒中によって生じた両側声帯麻痺の稀な症例を提示する.

2017年11月10日金曜日

延髄外側梗塞における両側声帯機能不全:症例報告と神経−解剖の相互関係のレビュー J Neurol Neurophysiol 2015

延髄外側梗塞における両側声帯機能不全:症例報告と神経−解剖の相互関係のレビュー









抄録

 背景:延髄外側(Wallenberg)症候群は,椎骨動脈疾患に関連した,もっともよくある脳卒中の症候群である.この症候群の特徴は,体側の体幹と四肢,および顔面の同側に影響する交差性の感覚の所見である.この症状が,構音障害に,めまい,Horner症候群に加わる.片側の声帯機能不全は頻繁にみとめるが,両側の声帯麻痺は極めて稀で,生命の危機になり得る合併症である.
 症例提示:我々は75歳男性で,急性延髄外側(Wallenberg)症候群を呈し,両側声帯麻痺のために急性気道閉塞となった症例を提示する.
 結論:我々は急性脳梗塞の稀な症状を報告する:すなわち両側声帯麻痺である.我々は,両側声帯に波及したことについての背景となる神経解剖学的機序を提唱する.

2017年11月4日土曜日

嚥下の制御における皮質入力 Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 2009





嚥下の制御における皮質入力





















レビューの目的
このレビューでは,嚥下の皮質制御における最近の研究の現在の大要と,ヒトの嚥下の神経生理学の領域の先端知識へのその関連性を示すことである.目的は,最近の知見に光を当て,まだ調査されていない研究の潜在的な疑問点を刺激することである.

最近の知見
ヒトの脳画像化の進歩は,ヒトの嚥下の皮質・皮質下の制御へのより新しい識見を大量にもたらした.これには嚥下の制御への半球の関与や神経損傷後の回復や代償の背景のメカニズムのよりよく理解することが含まれる.


まとめ
画像化技術と神経画像技術の進歩によって,嚥下の神経解剖と生理学についての我々の知識は,この20年に劇的に拡大した.多様な嚥下の皮質ネットワークと感覚入力が嚥下の皮質活動にどのように影響するかの統合と相互連結は,この精巧で,それでいて基本的な感覚運動機能を支える生理学的機序のよりよい理解を提供し始めたところである.嚥下の神経再構築のための実験的なパラダイムは,嚥下障害のリハビリテーションのための臨床診療への転換のためのエビデンスが提供され始めた.

2017年10月29日日曜日

誤嚥性肺炎の予測因子:嚥下障害はどれだけ重要なのか? Dysphagia 1998

誤嚥性肺炎の予測因子:嚥下障害はどれだけ重要なのか?










抄録.誤嚥性肺炎は,入院中の高齢者や介護施設入所中の高齢者における疾病や死亡の主要な原因である.肺炎に対する複数の危険因子が判明しているが,嚥下障害を含む異なるいくつかのカテゴリーにおいて因子の相対危険度を有効に比較した研究はない.この前方視的帰結研究では,ミシガン州アン・アーバーの退役軍人局医療センターの外来患者のクリニック,入院患者の急性期治療病棟,介護施設ケアセンターから189人の高齢者の被験者が対象となった.彼らは口腔咽頭期および食道期の嚥下と栄養摂取状態,機能的状態,医学的状態,口腔/歯牙の状態を判定するような種々の評価を受けた.被験者は,証明された誤嚥性肺炎の評価項目について,4年まで追跡された.二変量解析から,肺炎と有意に関連しているとされるいくつかの因子が見つかった.それから,ロジスティック回帰分析で誤嚥性肺炎の有意な予測因子を突き止めた.1つ以上の被験者グループにおいて,もっともよい予測因子は,食事に要介助,口腔ケアが要介助,う歯の数,経管栄養,複数の医学的診断,薬剤の数,喫煙だった.それぞれの有意な予測因子が果たすであろう役割は誤嚥性肺炎の発症機序との関連において説明される.嚥下障害は誤嚥性肺炎の重要なリスクであると結論づけられたが,一般に,他の危険因子も並存していなければ,肺炎を生じさせるには十分ではなかった.食事以外における要介護状態は,支配的な危険因子であることがわかり,経管栄養患者を除いたロジスティック回帰モデルではオッズ比19.98だった.

2017年10月21日土曜日

神経疾患による嚥下障害における上部食道括約筋機能不全に対するボツリヌス毒素(レビュー) Cochrane Database Syst Rev. 2014


神経疾患による嚥下障害における上部食道括約筋機能不全に対するボツリヌス毒素(レビュー)










抄録

背景

上部食道括約筋は気道の入り口に非常に近いために,上部食道括約筋の適切な開大が安全で効率的な嚥下には必要不可欠である.神経疾患の患者の多くが,進行性であれ非進行性であれ,上部食道括約筋機能不全を呈している.これによる患者にとっての症状は食べ物の飲み込みにくさで,それに伴う窒息や誤嚥を生じる(真声帯の高さを超えて,気管に物体が侵入すること).臨床的合併症には,誤嚥性肺炎,体重減少,脱水,栄養障害がある.経管栄養がしばしば適応となるが,死亡率上昇に関連する.QOLに影響を与えることもよくある.上部食道括約筋機能不全と嚥下を改善させることを目的とした幅広い介入がある.このような介入には,代償戦略,リハビリテーションテクニック,薬物介入,手術がある.この20年にわたり,上部食道括約筋機能不全に対する介入として,ボツリヌス毒素が普及してきており,それによって嚥下機能が改善させる上で有効であることを示唆するエビデンスがある程度出てきている.その有効性を調べた研究が数多くあるにも関わらず,この介入が,神経疾患に関連した上部食道括約筋機能不全のある患者の嚥下の改善において有効であるかどうかについて,コンセンサスはない.


目的

非進行性および進行性神経疾患に関連した嚥下困難(嚥下障害)の患者における上部食道括約筋機能不全を改善させることを目的としたボツリヌス毒素の仕様の有効性と安全性を確立すること.


検索方法

我々は,公表された試験についての以下の電子データベースで検索した:Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL);Ovid MEDLINE(1950-2013);EMBASE(1980-2103);AMED(Allied and Complementary Medicine)(1941-2013);CINAHL(Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature)(1937-2013).我々は,主要な臨床試験登録システムも検索した:CCT(http://www.comtrolled-trials.com);Clinical Trials(http://www.clinicaltrials.gov):Chinese Clinical Trial Register(www.chictr.org);ACTR(http://www.actr.org.au/).我々は,関連した試験をさらに見つけ出すために,全ての関連のありそうな研究の引用リストを調査した.我々は,Dysphagia Research SocietyとEuropean Society of Swallowinf Disordersの両者から,会議録の公表された抄録を手作業で検索した.Digestive Disease Week(Gastroenterologyで発表)も手作業で検索した.さらに,我々は,論文の抄録について,ProQuest Dissertations & Thesesを検索した.


選択基準

ランダム化比較対照試験のみを検索した.


データ収集と解析

JR,AM,MC,MWによって独立した検索が行われた.レビューの著者2人(JRとMW)は,文献検索から見つかったタイトル,抄録,キーワードを独立して調査した.


主な結果

ランダム化比較試験は抽出されなかった.29研究が除外され.主に試験デザインに基づいたものだった.


著者らの結論

上部食道括約筋機能不全と神経疾患のある患者に対する介入としてのボツリヌス毒素の有効性と安全性について結論に達することはできなかった.実地診療への情報となるような十分なエビデンスはない.今後の研究への方向性を提供する.

2017年10月12日木曜日

虚弱高齢者における誤嚥性肺炎の危険因子:系統的文献レビュー J Am Med Dir Assoc 2011

虚弱高齢者における誤嚥性肺炎の危険因子:系統的文献レビュー

















目的:虚弱高齢者における誤嚥性肺炎のリスクと,危険因子の中での口腔衛生不良の関与を系統的にレビューすること
デザイン:系統的文献レビュー
参加者:虚弱高齢者
評価法:60歳以上の入院患者・施設入所者・自宅生活者についての公表文献のみ.2人の著者が独立して,方法論的質について公表文献を評価した.誤嚥性肺炎に関連する各危険因子について,非調整オッズ比・調整オッズ比と対応する95%信頼区間を抽出した.結果は,Oxford Centre for Evidence-based MedicineオクスフォードEBMセンターのエビデンスのレベルにしたがって評価した.
結果:合計21編の公表文献が質の対象基準をすべて満たした.誤嚥性肺炎と年齢,男性,肺疾患,嚥下障害,糖尿病の間の関連性についてエビデンスレベル2a(コホート研究の均質性を伴った系統的レビュー)がみつかった.重度認知症,アンギオテンシンⅠ変換酵素欠損/欠損遺伝子型,口腔衛生不良が2b(個別的なコホート研究),栄養障害が3a(症例対照研究の均一性を伴った系統的レビュー),パーキンソン病と抗精神病薬,プロトンポンプ阻害薬,ACE阻害薬の使用が3b(個別的な症例対照研究)だった.危険因子の中での口腔衛生不良の関与は限定的と思われた.

2017年9月26日火曜日

呼吸器感染における口腔細菌の役割 J Periodontal 1999

呼吸器感染における口腔細菌の役割

























歯周病のような口腔の疾患といくつかの呼吸器の疾患の間の関連性が指摘されてきた.例えば,最近のエビデンスでは,呼吸器感染のプロセスにおける口腔の中心的役割が示唆されている.口腔の歯周病原菌は肺に誤嚥されて誤嚥性肺炎の原因になり得る.歯も呼吸器病原体のコロニー形成と続発する院内肺炎の温床として働くかもしれない.典型的な呼吸器病原体は,病院のICU患者や介護施設入所者の歯のプラークでコロニー形成していることが示されてきた.一旦,口の中で発生すると,このような病原体は肺の中への誤嚥され,感染を生じるかもしれない.そのほかの疫学研究で,口腔衛生不良もしくは歯周骨の欠損と,慢性閉塞性肺疾患の間の関連性が記載された.呼吸器感染の発症機序における口腔細菌の潜在的な役割を説明するようないくつかのメカニズムが提唱されている:1.感染を引きこすような口腔病原体(つまり,Porphyromonas gingivalisジンジバリス菌,Actinobacillus actinomysetemcomitansアクチノミセス・アクチノミセテムコミタンス,など)の誤嚥;2.唾液中の歯周病関連酵素が粘膜表面を変化させ,呼吸器病原体の付着とコロニー形成を促進する;3.歯周病関連酵素が病原細菌上の唾液ペリクルを破壊し,粘膜表面からのクリアランスを遅らせる;4.歯周組織に由来するサイトカインが,気道上皮を変性させ,呼吸器病原体による感染を促進する.

2017年9月18日月曜日

虚弱高齢者における口腔衛生ケアと誤嚥性肺炎:系統的文献レビュー Gerodontology 2011

 
虚弱高齢者における口腔衛生ケアと誤嚥性肺炎:系統的文献レビュー













目的:虚弱高齢者における口腔衛生ケアの介入と誤嚥性肺炎の発生率への効果について,系統的に文献をレビューする.
背景:口腔衛生ケアは,虚弱高齢者における誤嚥性肺炎の予防において重要な役割を果たしていると思われる.
方法:候補となる介入研究についてPubmed,Web of Science,Cochrane Library,EMBASE,CINAHLを検索した.入院または施設入所の高齢者で,機械換気に依存していない者に関する公表文献だけが候補となった.方法論的質については,2人の筆者が独立して公表文献を評価した.
結果:5編の公表文献が対象となり,レビューされた.2研究で口腔衛生ケアの改善が誤嚥性肺炎発生のリスクと誤嚥性肺炎での直接の死亡のリスクを低下させることが示された.残りの3研究で,適切な口腔衛生ケアが潜在的な呼吸器病原体の量を減らすことを示し,嚥下反射と咳反射の感受性を改善させることによる誤嚥性肺炎のリスクの低下を示唆した.
結論:今回の系統的文献レビューの結果によれば,食後の歯磨きや1日1回の義歯の清掃からなる口腔衛生ケア,および週1回の専門家による口腔衛生ケアは,誤嚥性肺炎の発生リスクを低減できるような最良の介入だと思われる.

2017年8月29日火曜日

ベッドサイド水飲みテストを用いた誤嚥についてのスクリーニングの正確性 系統的レビューとメタ解析 Chest 2016






ベッドサイド水飲みテストを用いた誤嚥についてのスクリーニングの正確性
系統的レビューとメタ解析























背景:誤嚥性肺炎での入院は高齢者では2倍である.嚥下に関連した誤嚥に対するスクリーニングのためのベッドサイド水飲みテスト(WST)を用いることは,さらなる合併症や死亡を予防するために,有効で,費用対効果が高い.我々は,嚥下障害に関連した誤嚥についてのリスクのある患者を判別するために用いられるベッドサイドWSTのスクリーニングの正確性を評価した.
方法:16のオンラインデータベースとGoogle Scholar,よく知られた専門家を2015年5月に検索した.18歳以上患者での前方視的研究で,経鼻内視鏡または嚥下造影に対するWSTスクリーニングの妥当性を検証した研究を対象とした.データの抽出には,Meta-analysis of Observational Studies in Epidemiologyのガイドラインにしたがって,二重盲検化抽出と質の評価を用いた.
結果:異なる3つのベッドサイドWSTで声の変化(例えば,湿性/嗄声の質)のあり/なしでの気道反射(例えば,咳/窒息)を誤嚥の判定に用いられていた.一口量(1〜5mL)についての統合推定値は感度71%(95%信頼区間63%-78%),特異度90%(95%信頼区間86%-93%)だった.90〜100mLの連続飲み試験は感度91%(95%信頼区間89%-93%),特異度53%(95%信頼区間51%-55%)だった.水の量を漸増する試験は感度86%(95%信頼区間76%-93%),特異度65%(95%信頼区間57%-73%)だった.気道反射と声の変化の併用は誤嚥の判定において全体的な正確性を改善した.
結論:現在用いられているベッドサイドWSTは,理想的ではないにしても,誤嚥のスクリーニングについて十分な有用性を有している.多い量での連続飲みで,明らかな気道反射や声の変化のない患者は,誤嚥のリスクを適切に除外できる.一口の少量は,臨床的な徴候があるときには誤嚥を判定できる.これらのベッドサイドのアプローチを併用することで,スクリーニングの正確性を改善できるかもしれないが,さらなる研究が必要である.

2017年8月24日木曜日

高齢者の誤嚥性肺炎の予防:我々に‘ノウハウ’はあるか? Hong Kong Med J 2014

 高齢者の誤嚥性肺炎の予防:我々に‘ノウハウ’はあるか?









抄録
 誤嚥性肺炎は高齢者ではよく見られる.誤嚥性肺炎のリスクを低下させるには,良好な口腔衛生の維持が重要であり,唾液の分泌に影響する薬剤や鎮静を生じさせる薬剤は,可能ならもっとも避けるべきである.H2遮断薬やプロトンポンプ阻害薬の使用は最小限にすべきである.経口摂取の際には,様々な代償法や促通手技が適用できる.介助での食事は,経管栄養を考慮する前に試してみるべきである.経管栄養は最終手段であり,主に栄養状態と水分補給を改善するためである.誤嚥性肺炎の予防と生存率改善は経管栄養の理論的根拠ではない.胃瘻や経鼻胃管チューブからの栄養投与は誤嚥性肺炎に対して同等のリスクがあり,持続的ポンプでの栄養投与は間歇的投与よりも良好だというわけではない.十二指腸栄養は,選択されたハイリスク患者では誤嚥性肺炎を減少させるかもしれない.もし高齢の患者が,耐えられないような咳を生じることなくACE阻害薬を服用できるなら,薬剤の継続は有効かもしれない.葉酸欠乏がもしあったら,速やかに補正すべきである.誤嚥性肺炎の予防のもっともよい方法を見つけるために,今後のよりよくデザインされた研究が必要である.